トヨタが雇った再建屋は日立出身のセールスマン 名古屋グランパスGM・久米一正【下】

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 また久米はスタッフに対して、「大卒・高卒の新人は、約半年間、話しかけても食事に誘ってもいけない」との通達を出している。プロの壁にぶつかるつらい時期を、選手に一人で乗り越えさせるためだ。6カ月が過ぎ、初めて久米に面談に呼び出されると、泣き出してしまう新人もいるという。

いつしかグランパスの選手たちは、久米のことを「校長先生」と呼ぶようになった。

もちろんGMにとって、スポンサーの役員と向き合うのも大切な仕事だ。トヨタのような大会社をスポンサーに持つ場合、特に「オーナーと向き合う能力」が求められる。

「役員を納得させるには、理路整然とした資料を作らないといけない。たとえば外国人選手の移籍話なら、代理人との交渉過程をすべて文章にして了解をもらう。日立では上司にハンコをもらう書類は、必ずA3の書類1枚で作ることになっていた。1枚ならページを差し替えることはできませんからね。このやり方はトヨタでも同じでした」

今季、名古屋グランパスはACLと国内リーグの過密日程に苦しみ、夏場は中位をさまよった。しかし、6月以降にオーストラリア代表のケネディや元日本代表の三都主を補強したことで、再び順位をじわじわと上げ始めている。

久米は現代のサラリーマンにこうアドバイスする。

「サラリーマンだって、これからは勝負しなきゃいけない時代になる。私はたまたまサッカーをやっていますけど、誰でも毎日が勝負。嫌なことがあって逃げていたら、男じゃない。ストイコビッチ監督はネバー・ギブアップという言葉をよく使う。何事にもそういう強い気持ちで臨むことが大事だと思います」

久米のモットーは「生涯青春」。グランパス再建を終えれば、久米はまた、彼を求めるクラブへと旅立つつもりだ。

(撮影:今祥雄)

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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