──この本では地震関連の類語をきちんと区別しています。
たとえば地震と震災。概念として区別してほしい。地震は自然に起きる現象で制御できない。予知、予測は難しい。仮にできたとしても、今の科学技術では止めたり小さくしたり、発生を遅らせたりすることはできない。だが、震災は適切に備え、きちんと「耐力」をつければなくすことができる。つまり、どんなに揺れても壊れない建物を造れば震災にはならない。日本は地震が起こると、いつも震災がセットになって起きてしまう。区別できない必然性はある。その表れではあるが、望ましいことではない。何より防災的な観点からこの区別にこだわりたい。
首都直下地震は震災を防ぐために意味のある重要な言葉
──首都直下地震というのも防災的な概念?
首都直下地震は狭義の地震学の教科書には出てこない。地球物理の教科書には地震の種類として、プレート境界地震やプレート内地震という言葉は出てくる。だが、首都直下地震は首都圏で防災活動をする人、あるいはそこに住む人にとっては、震災を防ぐために意味のある重要な言葉だ。直下でいったんM7の地震が起これば大きな被害が出る。それに適切に備えて少しでも被害を少なくするために、社会的な概念として関心を持ってもらう。その際、地震と震災とを分け、ほぐして考えないと正しい対応ができない。だから特別措置法など法律では首都直下地震は明確に定義されている。
──最近、その被害想定が大きくなっています。
国、都、県の想定は対策を取るためにある。災害対策基本法などで被害を想定して備える。予算をつけ、仕事とするためには、具体的にどういう被害があるか定量的に示されてなかったら、BCP(事業継続計画)が作れない。被害想定が大きくなったのは大まかに言って2つの理由からだ。
ひとつは、地震学が進歩して認識が改まり、より大きな揺れになるとわかれば被害想定は大きくなる。逆に科学が進歩して大きな地震は起きないとなれば、小さくなるかもしれない。現状の科学的知見は被害が大きくなるほうに働いている。もうひとつは、社会がどう備えるべきかということでもあるから、不確定的な要素の取り込み方で広がりが変わる。最新2013年の内閣府の想定は大ざっぱに言って2005年の倍ぐらいになっている。東日本大震災時の経験を踏まえ、たとえば「逃げ惑い」を重視したこともあった。
私の専門は観測地震学だから、どんな地震が起きるかから全体を考えることになる。
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