(第2回)10年後に人気となる業界・企業を選ぶという選択肢は正解か

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 炭鉱は、日本史の近・現代史には出てくるし、そういう仕事があったんだなと頭で理解することはできるけれど、正直いって遠い過去の産業のように感じていたのだ。しかし、そんな炭鉱がほんの40年前まで人気業界だったなんて!
 その後、就職活動をしていく中で、電通や博報堂といった学生があこがれる人気企業も、鉱山が人気就職先だった時代には、3流の仕事としてあざけりを受けていたということを知り、いよいよ「今の価値観」や「今の人気企業」という視点で就職活動をしていると将来を見誤るな、と強く感じた。

 時は統計を取り始めてから最悪の就職氷河期。新たな産業としてネット企業がちやほやされ始めてきた頃。
 単純な僕は、皆が人気企業のOB・OG訪問をしている間、「一歩先の視点で就職先を探してやるぜ」と思いたち、先輩のつてを頼りにジョブウェブというネットベンチャーを見つけ、首尾よくインターンシップ生として働き始めた。皆が就職活動をしている間、様々な仕事を現場で見ることができたおかげで、どの企業にいっても必要とされる、営業のスキルや手法、及び経験に関しての知識を体系的に学べる会社に行こう、と決心し、その思いを伝えることで、運よくある会社から内定を頂くことができた。

 今、振り返ってみると、「今、人気の企業ではなくて、今後人気になる業界や企業を選び、就職しなさい」というメッセージは僕のキャリア形成に大きな影響を与えたものではあったけれども、それが正しいものであったかどうかは正直言ってわからない。
 確かに人気業界は時代によって異なる。今、人気の業界ではなくて、これから伸びる業界や企業を選ぶことができたらそれは素晴らしいことだろう。

 しかし、将来伸びる業界や企業を選ぶことは、とても難しいことだ。僕はインターネット業界がこれからくる!と読んだが(今から思うと当たり前だ…)、卒業した直後ネットバブルの崩壊があり、多くの力不足のネットベンチャーは苦境に立たされた。中には職を失い、スキルを身につけることができないまま、転職を繰り返している人もいる。
 ただ、ネットバブルの崩壊を生き延びたネット企業たちは急成長を続け、上場した企業も多くあるので、大きな流れの中でネット関連ビジネスをみた場合、予想はあながち外れでもなかったが。

 一方、読み間違えた部分として、昔に比べ、人材の流動性が高まり転職が容易になっているので、別に「これから伸びる業界」に行かなくても良いということに気付いたことが挙げられる。3年以内であれば、「もともと力のある人」なら、どの企業からでも転職が可能になっている。しかも、様々な業界に対する、より客観的で、深い知識を得た状態で転職できるので、転職に関するリスクは軽減できるだろう。

 ただ、世の中の多くは「もともと力があるわけではない」人なので、「力がつく企業」に入るのが最も将来に対するリスクを減らし、リターンを最大化する職選びだと思う。大きな仕事ができる、経営者やマネージャーとしての経験を早い段階でできる、金融やマーケティング、ITに関する知識が早い段階で身につく、優秀な先輩が数多くいる企業などは、こういった「力がつく企業」に当てはまるのではないだろうか。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ(オットー・フォン・ビスマルク)」

 という。先人が積み重ねてきた歴史に学べ。ということだが、「学ぶ」の意味には、これからどのような変化が起きるか、自分の頭でしっかり考え、決断する、というところまで含まれていると思う。

 人気業界は時によって変わる。安定業界・企業というものは存在しない。(するとしたら自分の力を伸ばしてくれる企業がそれに当てはまるだろう)

 8年という社会人経験を通じ、愚者たる僕が経験に学んだことを振り返ってみた。ちょっとした就職活動の歴史についても述べてみた。
 僕の就職活動と短い社会人経験の「歴史」が、小さくてもいい、誰かの「学び」になってくれたら本当に嬉しい。

福井信英(ふくい・のぶひで)

慶應義塾大学在籍中にジョブウェブと出会い、インターンシップ生として働き始める。
大学卒業と同時に(株)日本エル・シー・エーに就職。経営コンサルタントとして、学校法人のコンサルティングに取り組んだことをきっかけに、2003年3月に(株)ジョブウェブに転職。
現在、新卒事業部の事業部長として、企業の採用活動のコンサルティングや学生を対象とした各種リサーチ、教育研修コンテンツの作成に取り組む。
1977年生まれ。富山県出身。
福井 信英

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