松下幸之助は、部下を感動させながら育てた

感動なくして部下は育たない

松下は、人の使い方がうまいと言われた。人を上手に褒めて使うという定評があった。しかし、実際には、そんなに上手な言葉を使い、巧みな話し方をしていたわけではない。むしろその話し方は必ずしも流暢ではなく、雄弁でもなかった。弁舌さわやかというよりも、どちらかといえば平凡な言葉で訥々と話をしていた。

それにもかかわらず、松下とどのような接し方をしても、多くの人が感激したのは、松下の根本的なところでの人間に対する認識のためであったと思う。

松下は、自分がほんとうに思うことを、自分のほんとうの言葉で話していた。本心を、自分の言葉で、謙虚に話していた。それだからこそ多くの人が感動したのだと思う。

メッキではない純金の言葉

松下の言葉は純金であった。メッキではなかった。純金の言葉であったからこそ、毎回同じ言葉であったとしても、あるいは洒落ていない、極めて平凡な言葉を使いながらでも、相手の心を打つことになった。きらびやかな言葉は、いっさい松下にも無縁のものであった。かっこいい言葉を使うとか、華麗な言葉を使うとか、そういうことはなかった。しかしなお、多くの人の心を打った。

本質的に相手を評価しないまま、口でいかに上手に話しても、相手は無意識のうちにそのことを察知してしまう。だからいくら褒めても、いくら綺麗な言葉を使っても、決して感動しないし、従うこともない。むしろ褒める人を軽蔑する。

逆に相手を本質的に人間として評価し、本質的に高い評価を与え、そういう前提のもとに叱ったとすれば、はたして相手を叱ったことになるのか、それとも、ほめたことになるのか。人間は、相手が自分を本質的にどう捉えているかということを、正確に察知する。

だから冒頭の「きみの考えたことをやろう」と松下が言ったエピソードを、テクニックとして受けとってほしくない。もしテクニックとして理解するならば、絶対に同じ真似はできない。しかし根底にある人間観に学ぶならば、いかなる局面であろうと、同じくらいうまいやり方が自然にできるようになるだろう。

このごろ、言葉のテクニックの本がたくさんある。こういう言葉を使ったらいい、これはいけないと、いろいろ説明がなされている。しかし、私はそのたぐいの本を評価する気になれない。ほんとうに大切なことは、人間に対する本質的な見方、人間に対する根本的な評価、そこを考え抜いて、そこから出発することなのである。

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