部下を感動させるということは、部下を育てることにつながる。逆にいえば、感動させることができない上司には、部下を育てていくことはできない。私は体験的にそう断言できる。
松下と話をした人の全部とは言わないが、かなり多くの人が感動し感激する。何か特別の話があったわけでもないのに、あるいは厳しいことを言われたにもかかわらず、それでも感激する人が多かった。
好き嫌いで人を判断しなかった
それはやはり、松下の「人間観」によるものだと思われる。松下は、人間はすばらしい価値を持っていると考えていた。「人間には宇宙の動きに順応しつつ、万物を支配する力が本質的に与えられている」という人間観を持っていた。だから、好き嫌いとか、感じがいい悪いということで人間を肯定したり否定したりしてしまうことは、決して許されることではない、という振る舞いをしていた。
好き嫌いや、自分の言うことを聞く聞かないで人と接していたのでは、人間の本質というものと本当につき合っていくことはできない。第一、好き嫌いは個人によって全然違ってくる。ある人のひとつの点を嫌いな人もいれば、そこがいいと言う人もいる。すなわち、好き嫌いは極めて表面的なことにすぎない。人間の本質とどうつき合っていくかということこそが大事なのである。
松下は、昨日入ってきた新入社員にも、お茶を運んできた女性社員にも、電気製品の点検に来た男性社員にも、誰に対してもまず、この人は人間としての無限の可能性を持っている、無限の価値を持っている、という考え方で接していた。だから話をしても叱っていても、おのずと本質のところで相手を高く評価しているという印象を与える。松下の口からいかなる言葉が出てこようが、相手は「自分の人間性を評価されている」という確かな手応えを感じる。
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