コスモ石油に灯る「財務制限」抵触の黄信号 最大約300億円の繰り上げ返済が眼前に迫る

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ところが、一息ついたのもつかの間、コスモの思惑はすぐに砕かれた。年明け以降、原油価格が一時、1バレル=30ドルを割る水準にまで下落したのだ。

2015年11月時点で、通期の原油価格の前提を同55ドルで見ていたコスモは、これを同45ドルに修正。従来は45億円のプラスで想定していた在庫評価影響が、570億円のマイナスに転じる見込みとなった。

繰延税金負債の取り崩しだけでは、コベナンツ抵触の回避には不十分。追い詰められたコスモは“奇策”に出る。2016年1月に持ち分会社である丸善石油化学の連結子会社化を発表したのだ。

丸善石化はもともと、コスモ石油の前身の1つである、丸善石油の石油化学部門。現在もグループ合計で4割を出資しているが、今回の子会社化により、約500億円の純資産を積み増すことができる。同社株取得に伴い、負ののれんとして70億~80億円の特別利益も発生する見込みだ。

コスモが抱える上流権益はいずれもコスト競争力が高く、さらなる減損計上のリスクは小さい。あの手この手で、今期末の純資産を2200億~2300億円まで積み上げ、急場をしのぐ。

綱渡りの今期決算

JXが東燃ゼネラル石油と、出光興産が昭和シェル石油と、2017年4月までの経営統合へ準備を進める中、コスモは「厳しい財務体質が仇」(元売り幹部)となり、業界再編から取り残されてきた。

業界内では、コスモを石油開発と精製、販売の各事業に切り分けて再編を進める「コスモ解体案」や、「(政府が黄金株を保有する)国際石油開発帝石などにコスモを救済させるのではないか」という観測さえ浮上している。

相次いだ事故により、毎年の定期修繕が義務づけられていたコスモだが、2016年4月ごろに認定を再取得し、定期修繕の時期が緩和され2年置きになる予定。来期は千葉製油所の稼働日数増加と修繕費用減少により、通期で60億円程度の利益改善効果を見込む。あと一歩で懸案である精製事業の再建に目鼻がつく。

とはいえ、コスモの2016年1~3月期業績予想の前提は、為替が1ドル=119円、原油価格が1バレル=30ドル。為替相場が1ドル円高に振れると6億円、油価が1ドル下落すると23億円、在庫評価損が膨らむ。

足元の原油・為替相場は振れ幅が大きく、仮に1~3月期の油価が20ドル、為替が110円となれば、在庫評価損はさらに300億円ほど膨らむおそれがある。3月末に予定している丸善石化の株式取得が、何らかの不備で4月1日以降にずれ込めば、コベナンツ抵触は不可避だ。

コスモ側は、シンジケートローンを組成する地方銀行などから早期返済の要請があっても、「(主幹事の)みずほ銀行に肩代わりしてもらえる約束を取り付けてある」(滝健一常務)と語る。銀行側の判断次第だが、大震災の影響を勘案した2012年と同じように、再び貸し出し条件の緩和に応じる可能性もある。

ただ、2度目のコベナンツ抵触となれば、銀行からの経営への介入は以前よりも強まるはず。コスモを取り巻く状況は予断を許さない。

「週刊東洋経済」2016年3月12日号<7日発売>「核心リポート03」を転載)

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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