ミナコさんが、少しためらいながら「私は、何も言わずに無視しちゃうかなぁ」と言って苦笑いしたのです。するとI think that’s wrong! (それ、おかしいやん!)と、ジロウさんが声高にミナコさんに詰め寄り始めました。「百歩譲って、割り込まれて自分が我慢するのはいいとしても、うしろに並んでる人もおるんやから、そこでなんも言わへんのはおかしいし、自分の利益だけの問題ちゃうやん!」どんどん気分も高揚して、語気も強まります。「自分が列に並んでたら、なんも言わへんミナコさんにも腹立つわ!」
責められたミナコさんは困った様子。ジロウさんとは目を合わせずに、遠くのほうを見つめて聞いていました。ジロウさんが話し終わると、一瞬彼の方を見てからぼそっと、I see. I agree with you. (そうですね。私もそう思います)と言って、うつむいてしまいました。
突如熱くなったジロウさんのせいで、やや気まずい雰囲気。それを打ち破るかのように、ナナコさんがすかさずイエローカードを出しました。
「ちょっと、ミナコさんにはもっと優しく話しなさいよ!彼女はナイーブなんだから」という感じでしょうか。さすが姉御肌のナナコさん、弱きを助け、強きを挫く! 意見こそ違え、困っているミナコさんの味方になって、かばってあげたのです。ミナコさんも安心したのか、Thank you, Nanako. (ナナコさん、ありがとう)と首を振り ながら、少し照れた様子でした。
ジロウさん、ナナコさんに注意されて我に返ったのか、今度は優しい口調で、I’m sorry, Minako. (ごめんな~、ミナコさん)と言って、反省した様子。指摘されて、すぐに素直に謝るところが男らしい。ミナコさんもDon’t worry about it, Jiro. (気にしないで、ジロウさん)と少し照れながら微笑んでいました。
かばったつもりが悪口に…?
でも、このナナコさんの助け舟、外国人が聞いたらヒヤっとする内容です。日本語で「ナイーブ」と言うと、「純粋」とか「繊細で傷つきやすい」という意味で使いますよね。ともすると少しポジティブなニュアンスで使われたりもしますが、英語のnaiveはその逆。「世間知らずで騙されやすい」とか「経験が浅くてうぶ」というニュアンスで、どちらかというとネガティブに使います。You’re really naive.と言われたら、「オマエ、甘ちゃんだなぁ」とか「そんなのに騙されちゃったの? 青いね」とバカにされたような感じがします。
ですから、ミナコさんをかばったナナコさんが言ったShe is really naive!の部分、実はちょっと悪口みたいに聞こえてしまうのです。聞こえ方をあえて日本語にするなら、「ミナコにはもっと優しく話さないとダメよ。この子、まだまだ世間知らずの小娘なんだから」といった感じ。日本語のナイーブはそのままnaiveを使わずに、sensitive(繊細な)という単語を使いましょう。
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