ブラザー工業を襲った「スマホショック」 名古屋の古豪メーカーに思わぬ荒波

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工作機械分野で不調に陥っているのはブラザー工業だけではない。ファナックやツガミといったほかの大手工作機械メーカーも、今期は大幅な減益にあえいでいる。これらの会社はそろって”IT関連顧客の受注減少”を減益の要因として挙げている。

背景にあるのは2014年に発生したスマホ特需だ。アップルが新しく発売した「iPhone6」で筐体デザインが大きく変わったことに加え、スマホ筐体全体のトレンドがプレス加工から切削加工に大きく移行した。

これにより、中国の製造受託メーカーからの受注が急増し、業界全体が大いに潤った。ブラザー工業も、2014年度通期の産業機械事業における売上高は前期比で倍増を記録した。

巨額買収後の成長戦略はいかに?

その特需が一巡したことが2015年度における受注急落の大きな要因となっている。各社は期初から慎重な想定をしていたが、スマホ特需剥落の影響は想定以上のものだった。一部の関係者の間では「2016年1~3月期からiPhone7関連需要が立ち上がってくる」という見方もあったが、実際はそれほど大きな受注につながらなかったようだ。

こうして2度の下方修正を強いられたブラザー工業。2015年10~12月期の産業機器事業の売上高は、特需発生前の2013年10~12月期の水準まで落ち込んだ。ただ、需要さえ戻れば、ブラザー工業の業績も回復基調に向かうだろう。今後は需要が安定している自動車向けに販売を拡大していくという。

2015年6月にイギリスのドミノ・プリンティング・サイエンシズ社を、ブラザー工業史上最高額となる約1890億円で買収し、成長に向けて大きく舵を切ったブラザー工業。今回の下方修正で出ばなをくじかれた形だが、来期こそは心機一転、再スタートを切れるだろうか。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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