現在のパートナーに充足することは決して悪いことではないが、先行きが不安定な相手の場合はせつない結果になりやすい。それはわかってはいるのだけど、いまが楽しすぎて別れられない。何か大きな出来事に腐れ縁を断ち切ってもらうしかない。そして、2011年の3月11日が来た。
「私も彼も都心の高層ビルで働いていました。私はすぐに彼に連絡を取りましたが、返信が来たのは何時間も歩いて帰宅した夜です。彼はすごく気落ちしていました。このまま死んでしまうのか、国に帰りたいと何度も言っていましたね」
「ごめん」を繰り返し、去っていった彼
時間が経っても彼は不安を募らせるばかりだった。2週間後に電話で話をしていたら、唐突に「お母さんが帰って来いとうるさいので帰国することにした」と告げられる。和美さんは戸惑い、怒りが込み上げてきた。
「どうしてひとりで勝手に決めるの? 遠距離恋愛をする自信はあるの? なぜ相談してくれなかったの?」
矢継ぎ早に攻め立てたがAさんは「ごめん」を繰り返すばかり。なお、遠距離恋愛に関しては「自信がない」とはっきり言われた。
和美さんは怒り続け、呆れ、やがて冷静さを取り戻した。気の弱いAくんは家族から離れて外国で死ぬかもしれない状況に耐えられないのだろう、と。
「引っ越しの準備を手伝ってあげて、最後は空港まで送って行きました。最寄り駅まで電車で戻り、Aくんが残していった自転車に乗って自宅まで号泣しながら帰ったんです。いま振り返ると自分は何をやっていたのかと思いますね……」
当時、和美さんは35歳。モテ期が過ぎ去ろうとしていた頃の別れだった。家にいると自己憐憫の涙が止まらない。そんなときに頼りになるのは同性の親友である。
「語学サークルの仲間です。以前からよく一緒に合コンに行っていて、2人で飲むこともありました。何でもいいから連れ出してほしいと頼んだから、本当に毎週のように遊んでくれました」
その友だちに誘われて合コンに行ったのは、空港でAさんを見送ってわずか2週間後のことだ。相手はノリがいい4、5歳上の男性たち。大手IT企業の同僚たちだという。
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