次に大深度法について見てみる。JR東海によれば、都市部ではできるだけ大深度を利用して中央新幹線を建設する予定とされている。首都圏では品川から町田市までの約35㎞の区間(深さ40mから110m)、中部圏では春日井市から名古屋市中区までの約20㎞の区間(深さ40mから100m)が対象区間である。ここでは大深度法が適用されることになる。
大深度法は、地下室建設等の利用が通常行われない深さ(地下40m以深)、もしくは建築物の基礎設置のための利用が通常行われない深さ(支持基盤上面から10m以深)のどちらか深い地下部分を公共目的で利用をする場合に土地所有者の意向に関わらず利用できるようにする法律である(大深度法第1条、第2条第1項第1号第2号、同法施行令第1条、第2条)。
土地の所有権は法令の制限の範囲内でその土地の上下に及ぶとされているから(民法第207条)、制限がなければ大深度まで権利の範囲が及ぶはずである。しかしながら、都市部では道路や鉄道などの地下利用の必要性が高く、かつ秩序ある利用が求められる一方、相当の大深度であれば地下利用が土地利用者に悪影響を及ぼす可能性は極めて小さい。
JR東海は補償しない方針だが・・・
そこで、大深度法と同法施行令では、首都圏、中部圏、関西圏の都市部では、国の認可を得ることにより大深度を公共目的で利用することができることとされている。使用の認可があった場合には土地所有者等であっても権利が制限され(大深度法第25条)、土地所有者に生じた損失は補償により対応することになっている(大深度法第32条、第37条))。
大深度トンネル建設費の問題はあるが、多数の土地所有者を相手にしなければならない地上や浅い地下につくるよりも建設を迅速に進めることができる利点がある。
なお、補償の点について、JR東海のHPにあるQ&Aでは、「大深度地下トンネルができることで地価が下がった場合には補償をするのか」という問いに対し、「地上の土地の使い勝手に影響を及ぼすことはなく補償は考えていない」と答えている。しかし、今後、中央新幹線の建設が進めばこの補償を求める請求問題が生じることもあり得るであろう。
中央新幹線は日本鉄道史上最大級の転換点になる。営業運転が始まってから生じる法的な問題もあるであろう。弁護士としては今後その視点からも中央新幹線に注目していきたい。鉄道趣味人としては煌(きら)めく2本のレールがない中央新幹線に慣れるまでにはまだ少し時間がかかりそうであるが…。
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