マイナス金利が金融緩和効果を発揮する日 適切範囲で実施なら負の面は大きくならない

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なお、ECBがマイナス金利を適用する範囲は、銀行の超過準備全体に相当するためGDP比約25%に相当するとされる。それと比べると、日本の適用幅は当初の10兆円(GDP比約2%)である。マイナス金利の適用金額がどの程度増えるかは、今後の政策次第だが、日本の銀行への適用範囲は、ユーロ圏と比べると限定的に止まる可能性が高い。実験的に導入されたといわれたユーロ圏の事例を踏まえ、日本では、銀行利益や信用創造機能に配慮した上で制度設計がなされたようにみえる。

実際に銀行にマイナス金利が付加されるのは2月中旬以降だが、すでに国債金利水準は全般的に大きく低下して、日本の10年国債金利もゼロまで低下した。新しい制度運営のもと、短期金融市場でのマイナス金利誘導のオペレーションが落ち着くまで、短期的に国債市場は乱高下する場面がありえる。ただ、それが落ち着けばマイナス金利導入による実質金利押し下げは、景気刺激的に働き金融緩和として効果を発揮するとみられる。

銀行のメリットとデメリットを見定める

そもそも今回のマイナス金利は、「マイナス金利付き量的質的金融緩和」という既往の政策とのパッケージで打ち出された。量的金融緩和の枠組みの中で、年間80兆円規模のベースマネー拡大で増えた分の一部の当座預金についてマイナス金利が課されるわけで、量的金融緩和の継続を前提にマイナス金利が存在する。

銀行のバランスシートに、資産として新たに増える当座預金がマイナス金利になるため、銀行の資産(ポートフォリオ)選択を通じて追加的な融資機会に対して貸出金利が下がるので、融資を増やす行動が促される。日銀が導入したマイナス金利政策は、量的金融緩和によるポートフォリオリバランス効果を強化する経路で、補完的な役割を果たすと位置づけられる。

先に述べたが、量的金融緩和の景気刺激効果を強める効果が発揮するには、銀行に課されるマイナス金利のコスト(銀行への課税)が過大になり金融機関のリスクテイク・資金仲介機能が低下するなど、負の側面が大きくならないことが条件になる。

一部論者が、銀行の信用創造・資金仲介機能の低下を懸念するのは理解できる。ただ、ユーロ圏の先例が示すように、マイナス金利が適用される範囲が適正であれば負の側面は大きくならないし、貸出が増えて銀行利益が増える経路もある。メリットとデメリットを見定めながら、今後、日本銀行のマイナス金利の幅が運営されるのではないかと予想される。

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