マイナス金利が劇薬と称される理由の一つは、マイナス金利を負担する金融機関の利益が減少(課税強化)する副作用があるためである。仮に銀行の財務健全性が損なわれれば資本制約もあり、貸出金利がいくら低下しても貸出は増えない。量的金融緩和によって銀行などの融資・投資行動を積極化させようとしても、金融機関の行動が委縮してしまえばマイナス金利は逆方向に作用する。
実際には、ECBが2014年半ばからマイナス金利導入を採用し、その後量的金融緩和を始めた。それ以降家計向け貸し出しは若干だがプラスに転じ、その後もプラス幅を拡大させている。また、2014年まで大きく減少していた企業向け貸し出しの減少幅も縮小して、2015年半ばからプラスに転じている。2014年後半以降のユーロ圏の銀行に対する調査での「貸出基準」をみても、企業向け・家計向けのいずれにおいても「貸出基準を緩ませる」と回答する金融機関が過半数を超えていた。
金融緩和強化で持ち直した欧州経済
これらのユーロ圏の銀行貸出の伸びや、貸出基準の動向を踏まえると、マイナス金利+量的緩和の金融政策パッケージは、金融機関の行動を通じて、景気刺激的に作用したとみられる。量的金融緩政策の効果が大きかった可能性はあるが、マイナス金利導入で銀行利益が減り、貸出基準が厳格になるなどの悪影響はほぼ観察されなかった。
銀行貸出の伸びと同様に、2014年後半以降、欧州経済は金融緩和強化によるユーロ安の後押しもあり、ユーロ圏の経済成長率は持ち直し、企業景況感指数は2015年以降改善方向で安定的に推移。実質GDP成長率も2014年は0.9%だったが、2015年には1.5%前後まで成長率は高まった。2015年は新興国経済失速の逆風を各先進国が受ける中で、相対的に欧州経済は堅調だった。
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