過去の名作の「焼き直し」も創造力発揮の場だ スピルバーグはアイデアを加えて深めた

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少年は、暗黒の力の誘惑に負けないと誓い、巨悪を倒す旅に出る。旅の途中、心の底から信用できる2人の友人にめぐり会う。1人は感情的で負けん気の強い男性。もう1人は頭脳明晰な女性だ。やがて3人は恋愛感情を抱くようになる。少年は、友人たちを助けるために様々な危機を乗り越える。そして観客は、彼が偉大な存在になる運命を背負っていることを知る。

最後には、悪の権化は悪より強い力、そう愛の力に打ち負かされて果てる。

これは『スター・ウォーズ』かもしれないし『ハリー・ポッター』かもしれない。ちょっと捻りを加えれば、そんな映画はいくらでもある。似ているからといって、映画がつまらなくなるわけではない。それどころか、オリジナリティに傷がつくわけでもないから不思議なことだ。『スター・ウォーズ』は大好きなので、何十回も見ている。うちの屋根裏には第1作の公開時に作られた関連玩具が山積みだ。『ハリー・ポッター』も大好きなので、全作とも何十回も見た。こちらも、屋根裏に関連玩具が山積みだ。

原作が出版されるたびに、子どもたちと一緒に徹夜で本屋に並び、それぞれ何回も読み、さらにはスティーヴン・フライが朗読したオーディオテープ版も聴いた。何度体験しても、決して飽きることはなかった。たとえそれが『スター・ウォーズ』と同じ内容だとしても。

すべての物事はやり尽くされている

すべての創作物は、既に存在する作品の上に積み重ねられて作られる。何かを作って「このようなものを作ったのは私が最初だ」と言うような人は、受けた影響に気づいていないだけなのだ。クリエイティブな人は、自分が愛してやまない何かを上手に活用する。自分が深く敬意を表するもの
に触発されることを恥じたりはしないのだ。ここで悪い報せが一つ。すべての物事はやり尽されている。良い報せも一つ。おそらく同じことをやり直しても、気づく人はほとんどいない。

ステファニー・メイヤーが書いた『トワイライト』の筋は、『嵐が丘』に触発されているが、ほどなくブロンテの古典的名作とは別の方向へ歩き始める。ジーン・リースの書いた『サルガッソーの広い海』は、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』への創造的返歌といったところだろう。『ジェーン・エア』の魔法の虜になってしまったリースは、登場人物をもっと掘り下げたくて先日譚を書き、各人の知られざる背景を探求した。そして『ジェーン・エア』では影が薄かったバーサのキャラクターを際立たせたのだ。ストラヴィンスキーは、ペルタゴレージやチャイコフスキーの音楽、そして自分の好きな民族音楽を切り刻んでコラージュにして、新しい音楽に仕立て上げた。

ハーマン・メルヴィルの『白鯨』が現代の話だったら? 白い鯨モビィ・ディックをホオジロザメに挿げ替えれば、ピーター・ベンチリーの小説、スティーヴン・スピルバーグの映画『ジョーズ』の発想の源が知れる。『白鯨』はエイハブ船長が方々で大きな被害を出す凶暴な鯨を追い求める話だ。白い鯨に復讐心という人間的な性格が与えられ、その復讐心に駆られて人間を襲い続ける。白鯨を見つけたエイハブ船長は、船を激突させる。鯨はエイハブ船長もろとも船ごと海の深みに潜航する。

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