過去の名作の「焼き直し」も創造力発揮の場だ スピルバーグはアイデアを加えて深めた
『白鯨』に敬意を抱いていたピーター・ベンチリーとスピルバーグは、現代版として焼き直すことにした。『白鯨』という素晴らしい物語が現代の観客向けに新たに活性化され蘇ったというわけだ。古典的名作をさらに推し進めることにしたベンチリーとスピルバーグは、『白鯨』を出発点に、
より面白いアイデアを加えてテーマを深めていった。
『ジョーズ』という足場を使った『エイリアン』
「これは宇宙のジョーズだ」。リドリー・スコットはこの一言だけで20世紀フォックスに映画『エイリアン』を売った。スタジオの重役はすぐに理解した。『ジョーズ』の持つインパクトは誰もが理解していた。それを今度は宇宙船という逃げ場のない空間で展開しようというのだ。映画制作の売り込みは簡単ではない。何しろアイデア一つで映画スタジオを説得して、何百万ドルという予算を引き出し、脚本家や俳優、美術監督をはじめ制作チームを雇わなければならないのだ。
「宇宙のジョーズ」というコンセプトは、制作チームが参照可能な道標になった。ハリウッドスターでは観客が感情移入しにくいという理由で、『ジョーズ』のときと同じように無名の俳優が配役された。『ジョーズ』に登場したオルカ号は、今にも沈みそうなボロ船だったので、『エイリアン』のノストロモ号も汚れた宇宙船になった。流線形でモダンな形状を持つ、『スター・ウォーズ』や『2001年宇宙の旅』に登場するような宇宙船とは似ても似つかないものだった。『ジョーズ』では、肝心の鮫は最後まで全貌を現してくれない。作り物であることを隠すためにそうしたのだが、『エイリアン』でも同じ手を使い、ゴムのスーツを着ている人間という正体がばれないようにした。共通する要素は他にもたくさんあるが、スコット組の面々は『ジョーズ』の核にあるアイデアに自分たちだけのコンセプトをつけ足して、まったく違った映画に作り上げた。スコットは『ジョーズ』という足場を使って自分の家を建てたというわけだ。そして『エイリアン』は何百匹という柳の下のドジョウを生み出し、ドジョウは今も増え続けているのである。
クリエイティブな人は、自分が感銘を受けた物語や絵画、歌やアイデア等を作り直してみる。作り直す過程で作品は自分のものとなり、まったく新しい命が吹き込まれる。もし他の人の作品が頭から離れなくなってしまったら、思い切ってそれを作り直してみるのもいいかもしれない。そうすれば頭の中から吐き出すことができるから。
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