(第8回)幹細胞、再生医療の最先端をいく血液学(後編)

●FACSの開発と幹細胞同定

 10種類の血液細胞はそれぞれ決まった数を維持し、また炎症時などには必要な特定の種類の白血球のみが局所的に、あるいは全身で数を増大させるというダイナミズムももつ。我々が何らかの病気が疑われる時には採血をし、血算を測定するのはそこにたくさんの情報が秘められているからである。このダイナミズムや恒常性の維持にはどこかにもととなる細胞のプール、すなわち幹細胞がいると考えると説明がしやすい。が、血液細胞のダイナミズムを血液幹細胞のみでは説明しにくい。血液幹細胞から末梢の血液細胞までの分化はまだ長い道のりがある。血液幹細胞が起点では時間もかかるし、特定の方向への分化誘導の多段の制御が必要だからだ。そこで、幹細胞のみならず、分化の途中段階にも細胞のプールがあると考えることでより説明がしやすいと考える。この中間段階の細胞プールを、プロジェニター、あるいは前駆細胞という。

 組織幹細胞とプロジェニターの定義の区別は必ずしも明確でなく、同義語として使用される場合もあるが、一般に幹細胞が非常にゆっくりと増殖して必要時に動員され増殖するのに対し、プロジェニター細胞は活発に増殖しており、また、その分化能はよりせばまっている。組織再生の観点からは、この強い増殖能をもち、運命の限られているプロジェニター細胞を用いることが効果的であるのかもしれない。幹細胞がゆっくり増殖していることについてはがん幹細胞の項でまた関連した話題を提供しようと考えている。

渡辺すみ子(わたなべ・すみこ)
慶応義塾大学出身。
東京大学医学系研究科で修士、続いて東大医科学研究所新井賢一教授の下で学位取得(1995年)後、新井研究室、米国Palo AltoのDNAX研究所を拠点に血液細胞の増殖分化のシグナル伝達研究に従事。
2000年より神戸再生発生センターとの共同研究プロジェクトを医科学研究所内に立ち上げ網膜発生再生研究をスタート。2001年より新井賢一研究室助教授、2005年より現在の再生基礎医科学寄付研究部門を開始、教授。
本寄付研究部門は医療・研究関連機器メーカーであるトミー、オリエンタル技研に加え、ソフトバンクインベストメント(現SBIホールディングス)が出資。
東大医科研新井賢一前所長(東大名誉教授)、各国研究者と共にアジア・オセアニア地区の分子生物学ネットワークの活動をEMBO(欧州分子生物学機構)の支援をうけて推進。特にアジア地域でのシンポジウムの開催を担当。本年度はカトマンズ(ネパール)で開催の予定。
渡辺すみ子研究室のサイトはこちら
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