(第8回)幹細胞、再生医療の最先端をいく血液学(後編)

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●FACSの開発と幹細胞同定

FACS:蛍光標識した細胞を解析したり、分離したりする装置
 2006年の京都賞は米国スタンフォード大学のヘルツェンバーグ博士が、セルソーターと呼ばれる細胞を分画する装置の開発に貢献したことによって受賞した。細胞の分画とは様々な種類のまざった細胞の集団の中から特定の性質をもった集団の細胞のみをとりだす(純化)ことをいう。例えば、末梢血は先に述べたように約10種類に大別される細胞の集団であるが、そのなかから赤血球のみ、特定の白血球のみを無菌的に生きたまま取り出すことができる装置をセルソーターという。
 細胞はその表面に様々な蛋白質が存在し、その種類が細胞によって異なっている。ヘルツェンバーグ博士らはこの点に着目、これらの蛋白質に対する蛍光色素で標識した抗体で細胞を染色し、その染まり方に加え、細胞の大きさ、密度などを瞬時に測定し、これらのパラメーターを指標に、ある特定のパラメータ値をもつ細胞のみを分取する装置を長年かかって開発した。
図8-4:セルソーターによる細胞の分離
図8-5:プロスペクティブなやり方による幹細胞の同定
後ろ向き(レトロスペクティブ)な解析に対して、前向き(プロスペクティブ)な解析にはセルソーターが威力を発揮する。セルソーターは細胞を生きたまま分離することができるので、分離した異なる細胞集団を用いて再びメチルセルロース解析を行う。するとこの模式図のように、異なる蛋白質をもつ細胞集団からは、異なる性質のコロニーが産生される可能性がある。すると我々はこれらのコロニーを産生する細胞の実体として、「緑の抗体が認識する蛋白質を持つ」という情報を得ることになる。そこでその細胞集団をさらに別の抗体で標識し分離し同様の実験を重ねていく。
例えば、次は赤で標識された別の抗体で、緑で標識された集団をさらに分類するのである。このようにしてCD34, c-kit, Sca-1とよばれる細胞表面たんぱく質に対する抗体を用いると、これらの抗体が反応するかしないかを指標にして造血幹細胞を分離することが可能であることがわかってきた。マウス造血幹細胞はCD34抗体には反応せず、c-kit, Sca-1抗体には反応する細胞集団であることがあきらかになった。この手法は血液のみならずすべての臓器に応用可能な手法である。
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