創造力は「知識量」から生まれるものではない ジョブズは少ない知識を最大限に使った
大学時代のジョブズは、自分が興味を持った授業以外は受けなかった。ある日、カリグラフィーの授業を告知するために作られた美しいポスターに出会ったジョブズは、一目惚れで授業を受けた。
そこで彼は、活字の書体には一字一字個性があるということを教わった。言葉を形成する以前に、文字そのものに意味がこめられているということを知った。活字の配列というものは、機能的であると共に魅惑的だった。それは、科学的には捉え得ない微妙な芸術性であり、ジョブズはそのこと
に気づいたのだった。
ジョブズは、アップルコンピュータという会社を芸術と高速演算の交差点として捉えた。技術とデザインを分けて扱うことをやめ、一部マニア向けの不恰好なものだったコンピュータに、華麗なスタイルを与えた。マッキントッシュのコンピュータに多くの字体が実装されているのも、例のカ
リグラフィーの授業のお陰だ。フォントは見た目も美しく配列され、スタイル重視は一目瞭然だ。
すべてのパーソナルコンピュータにジョブズの影響
そして、それがアップルを競争相手から引き離す要素でもある。ウィンドウズもジョブズの思考を模倣した。その意味では、すべてのパーソナルコンピュータはジョブズの影響を受けていると言える。
アップルは技術革新の先頭を行く会社というわけではないが、他社のアイデアを作り変えた。パソコンを市場に導入したのはIBMだったし、スマートフォンを最初に作ったのはノキアだった。
アップルが最初に作ったイノベーションと言えば酷いものばかりだ。アップル・ニュートンやG4キューブを覚えている人がいるだろうか。覚えるにも値しない。ビル・ゲイツは、こう言っている。「僕たちもタブレットは作ったさ。アップルが手を出すずっと前に、何種類も作った。でも、いろいろな機能を一番うまくまとめたのはアップルだったということだね」。ジョブズは当時を振り返って言った。「見た目の美しさと品質が徹頭徹尾管理されなければ、私は落ち着いて安眠できない」。
起業家やクリエイティブな思考の持ち主は、たとえそれがどんなに小さくても、持っている情報を最大限活用できる人たちなのだ。持っている知識は常にふるいにかけられ、一見些末なものでも使い倒す。膨大とはいえない知識を武器に、ジョブズはコンピュータ産業の因習に挑んで勝った。
過剰でないことによって優れたデザインになるということを、ジョブズは世に問うたのだ。自分でも気づかないような何かが、閉じられていた扉を開いてくれる鍵なのかもしれないのである。
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