ベンチャーが先導する再生医療、臓器移植の代替も視野に応用研究が進む

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心臓移植の対象患者が再生心筋で機能を回復

「どんな細胞ができるかでなく、患者さんの病気が治るかが重要」。そう話すのは、大阪大学医学系研究科で、主に重症心臓疾患の治療と研究を行っている澤芳樹教授だ。

07年12月、心筋が伸びて心臓のポンプ機能が失われる拡張型心筋症の男性患者(当時56)が、阪大病院を退院した。心臓移植でしか助かる見込みがなかったこの患者を、澤教授のチームは「細胞シート」を使って治療した。筋繊維の元になる筋芽細胞を患者の太ももから取り出して培養し、直径4センチメートルほどのシートを作製。これを積層させて心臓の左心室を中心に張り付けたところ、心筋の機能が回復したという。

現在、澤教授は筋芽細胞よりも心筋に適した幹細胞を探している。目下の有力候補は脂肪だ。脂肪に含まれる間葉系幹細胞を取り出し、心筋の性状に近づけるため分化誘導する。「脂肪は余分なものと思われがちだが、実はものすごい潜在能力がある」と澤教授は説明する。

澤教授の視野には、iPS細胞の活用も含まれる。iPS細胞で心筋シートを作り、心筋梗塞を患ったマウスの心臓に張ったところ、ポンプ機能の回復したマウスが見られた。ただ、細胞の99%は心筋になったものの、残り1%の未分化細胞から半分程度の確率で奇形腫ができた。それをゼロにするのが当面の課題だ。

「再生医療はトンネル工事と一緒」と話すのは、慶應義塾大学医学部の坪田一男教授だ。感染症や化学外傷、スチーブンス・ジョンソン症候群(医薬品の副作用などで起こる)など、角膜の幹細胞が障害を受けると、視力が失われることがある。

坪田教授は世界に先駆け角膜移植に幹細胞移植を導入したが、「トンネル工事」とは、臨床と基礎の両サイドから研究を進めて、実用化に結びつけようという発想だ。まず、臨床側で取り組んでいるのが「パーツ移植」。角膜を形成する上皮、実質、内皮の3層のうち、問題のある部分だけを移植する技術だ。

一方の基礎研究側では、ES細胞やiPS細胞を用いた角膜の作製に取り組んでいる。すでに坪田教授らはES細胞を用いた角膜上皮のシート作製法を確立。iPS細胞については今後、上皮、実質と内皮の各細胞の作製を目指していく。「分化していく細胞をがん化させないため『お前は上皮細胞だ』と2世代、3世代にわたって培養し、角膜上皮細胞の性質を純化させる」(坪田教授)。

実質細胞にかかわる疾患には角膜変性症や円錐角膜(角膜中央部が突出する)があり、内皮細胞にかかわる疾患にはフックス角膜内皮変性症などがある。「iPS細胞から上皮だけでなく実質細胞や内皮細胞も作り、アイバンクに頼らない社会をつくりたい」と坪田教授は意気込む。

安全性などハードルは多いが、再生医療が注目されているだけに、大学病院など医療機関での臨床研究は着実に進みそうだ。ただ、再生医療の普及には、一部の先進的な医療機関が手掛けるだけでは足りない。やはり企業による産業化が不可欠だ。


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