(第39回)<森下洋子さん・後編>バレエへの思いはゆるぎなく、変わらない

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●最近の子どもたちについて

 悲しい事件が起きているのは、大人に余裕がない、寛容な心がないからだと思うのです。
たとえば、バレエ学校のレッスンにしても、教師がやる気がないと子どももだらけてしまうのです。愛情を込めて厳しくやっているクラスは子どもたちも皆、ピシっとしています。先生は子どもの鏡です。子どもってすごく敏感なのです。だから、大人は本当の愛情を持って接しなければいけません。
 たとえば、単にモノを与えるというのではなく、「今日はどうだった」という言葉を、「おかえり」のあとに、一言添えたり、何かあったら「よくやったね、がんばったね」と。それだけで子どもの気持ちは違うと思うのです。
 ですから、うちのバレエ学校では、保護者の方には、ブツブツと批評なんかいらないから、「よくがんばったわね」「すばらしかったね」の一言だけ言ってくださいねと話しています。そして、子どもには、きちんとお礼を言いなさいと。そういうことがすごく大切だと思います。感謝の気持ちはきちんと言葉に出さなければいけません。

 また、ここでは、0歳児も10ヶ月くらいの立って歩ける頃からママと一緒にお稽古ができます。2歳まではママと一緒にお稽古をしますが、3歳からは一人でお稽古するようになります。そこからはパパママクラスという待ち時間に楽しむクラスに入るご両親もいらっしゃいます。パパママクラスから発表会のあるLGクラスに進む方もいらっしゃって、おばあちゃまと三代で発表会に出る子もいます。こういうことは素晴らしいと思っています。子どもと二人きりで一日中家で過ごすよりは、お稽古を一緒にすると、ママも生き生きしてきます。
 また、小学校高学年以上で、自分からバレエをはじめたいと思った初心者の生徒さんも、うちではクラスをもうけてとても大切にしています。

 昔に比べて、親子の会話やコミュニケーションが薄れていくなかで、ひとつの共通の話題があって、親と子で話ができることはとても大切なことです。家に帰ったら宿題をするだけ、時間に追われ、会話もないなんていうことは危険です。子どもはやっぱり寂しいのです。

●バレリーナ歴、57年目を迎えて

 バレエを続ける秘訣は、たったひとつだけ。「続ける」という思いなのです。私には、何があっても続けるという、ゆるぎない信念があるだけです。
 バレエを始めたきっかけは、身体が弱かったから何か運動をしようということでした。当時3歳でしたが、バレエには「これだ」という直感的な何かがありました。それからずっと、バレエへの思いはゆるぎなく変わりません。私の中では、バレエを続けるために、その他のいろんなことをするのです。
 バレエへの思い、そして、生きていくということはバレエのためだと思うからこそ、友達も周囲の人も「なんとか続けさせよう」と思ってくださるのでしょう。

 今年も既に一月公演を終え、春には府中の森芸術劇場とBunkamuraオーチャードホールで「眠れる森の美女」を演じます。松山バレエ団としても、夏休みスペシャルなど、たくさんの公演も控えています。
 まだまだバレリーナとして、松山バレエ団の団長として自分を磨き続けていきたいと思います。
(取材:田畑則子、撮影:戸澤裕司


森下洋子<もりした・ようこ>
1948年、広島県生まれ。
3歳よりバレエを始め、洲和みち子、橘秋子氏に師事。その後、松山バレエ団のメンバーとなり、松山樹子氏に師事し、2001年より同団長を努める。数々の国際コンクールで芸術賞を受賞。日本はもとより、アメリカ、欧州、中国など世界各地で活躍。1985年英国ローレンスオリビエ賞受賞。1997年女性最年少の文化功労者として顕彰される。2002年日本芸術院会員に就任。2006年舞踊歴55年を迎えた。
著書に『バレリーナの情熱』(大和書房)など。
松山バレエ団公式サイト
http://www.matsuyama-ballet.com/
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