ツバキ・ナカシマ、何のためのMBOだったのか 儲かったのはファンドと元社長だけ
ツバキ・ナカシマが上場廃止の際に使ったMBOは、キャッシュアウトと呼ばれる企業買収の手法のうちの一類型である。キャッシュアウトは、2006年5月施行の会社法で解禁された制度で、株主総会で特別決議を通せば、本人の同意がなくても少数株主から保有株を買い取れるようになった。
このため、買収者はまず、公開買い付け(TOB)で特別決議に必要な2/3以上の株を買い集め、株主総会を経てTOBに応募しなかった株主からも強制取得して完全支配する。買収対象会社を非上場化することで、株価に左右されずに大胆な経営改革を実施するのだ、というのが建て前になっている。
何しろ株式の2/3を押さえれば抵抗する株主がいても完全支配が可能だから、2006年以降大流行し、この手法で300社近くが非公開化している。MBOは会社の経営陣が、買収の主体となっているケースであり、買収資金の出し手となる投資ファンドとタッグを組む。
MBOが収益回復を遅らせた
ツバキ・ナカシマの買収に野村証券系の投資ファンドNPFは1046億円を投じているが、買収から3年10ヵ月後、カーライルに387億円で保有するすべての株を売却。これでNPFは約72億円の利益を稼いでいる。1046億円で買った会社を387億円で転売したら、なぜ72億円も利益が出るのか。
NPFは買収資金のうち315億円を出資、残る750億円は野村キャピタルインベストメントからの借り入れで賄っている。NPFは買収にあたって、ペーパーカンパニー(TNNインベストメント)を設立して、ツバキ・ナカシマを買収した。買収後はTNNインベストメントを存続会社に、ツバキ・ナカシマを吸収合併。TNNインベストメントはツバキ・ナカシマに名前を変えている。
そうすると、TNNインベストメントの借り入れは、名前を変えたツバキ・ナカシマが返済することになる。だからこそNPFは315億円で手に入れた株式を、387億円でカーライルに売却することで、72億円の利益を手にすることができたのだ。
これこそがLBO(レバレッジドバイアウト、借入金を使った買収)の妙味だ。野村は一連の非公開化で、TOBの買付代理手数料として3億円、今回の再上場で4億円も手にしている。
買収資金の融資から得られる金利もそれなりの金額になっただろう。ツバキ・ナカシマが野村証券グループにもたらした儲けは少なく見積もっても83億円強となる。
ツバキ・ナカシマはMBOで750億円の借金を背負って、非公開化した。再上場に至る8年間で、どれだけ成長したのかというと、その気配はない。MBOなどしないほうが良かったのではないかとすら思えてくる。
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