アメリカが史上空前の経済対策を断行、保護主義に突き進むのか?


中国に対する厳しい姿勢は大統領就任後に消えた

NAFTAを別にすると、米国の貿易に関するタカ派が最大の標的としてきたのは中国だった。複数の上院議員が、人民元が大幅に上昇しなければ(ある法案では27%)、中国に対して制裁を課すことを目的とする法整備を進めてきた。オバマ氏は、上院議員としても、大統領候補としても、このような法律の制定を支持してきた。ところがこのような法案が議決にまで進んだことはなく、今後も議決されることはなさそうだ。NAFTAに関する選挙運動中のレトリックと同様に、オバマ大統領の人民元に関する厳しいコメントは姿を消した。ホワイトハウスに引っ越すと物事は違って見えるようだ。

ティモシー・ガイトナー財務長官の指名承認公聴会では、中国を通貨「操作国」だと名指しするオバマ陣営の選挙運動中の声明の一部を引用してしまった。ガイトナー氏の補佐役が、上院からの質問に対する100ページもの回答書の中に、ホワイトハウスへ照会することなく入れてしまったためだ。ホワイトハウスの広報官は直ちにそのコメントを否定。オバマ大統領自身も1月30日の胡錦濤主席との電話協議において協力の必要性を強調。通貨問題への言及を明らかに回避することによって、胡主席を安心させた。

オバマ大統領も前任の大統領たちと同様に、人民元の上昇傾向が続くことを願っているが、その一方で、強硬策をとらないほうがよいという賢明さを身に付けている。米国は中国からの資金流入に依存している。オバマ大統領は貿易戦争も通貨戦争も避けたいところだ。中国側も事情は同じで、米国への資金提供を止めれば人民元が急上昇し、自分の足元を攻撃するに等しいことになる。

中国の輸出が急激に縮小している中で、米中両国のリーダーは、通貨戦争ではなく、協力関係を語ろうとしている。3月11日、オバマ大統領がホワイトハウスで中国の外交部長と会談した際には、米海軍の調査船が中国艦船から航行妨害を受けた問題と経済危機は話題にしたが、通貨問題には触れなかった。4月1日のG20でのオバマ・胡錦濤会談でも通貨問題については取り上げなかった。人民元の対ドル相場は中国が通貨政策を変更した05年7月と比べ2割高い水準が続いている。人民元以外のほとんどの通貨が急激に下落しているのとは対照的だ(下図)。

グローバル化の進展で、世界は密接につながった。米国の保護主義化は、米国にとっても大きなダメージとなる。そのことは米国民自身がよくわかっている。米国が保護主義化するおそれは、日本や他の国々で多くの人々が心配しているよりもずっと小さい。


(リチャード・カッツ(在ニューヨーク) =週刊東洋経済)
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