アメリカが史上空前の経済対策を断行、保護主義に突き進むのか?
保護主義的な案は労働組合の支持を受けた。しかし、この案に対しては、外国からだけではなく、GE(ゼネラル・エレクトリック)やキャタピラーなどの米国の大企業からも猛烈な反対が巻き起こった。GEやキャタピラーは、この条項が可決されると外国からの報復に直面することになりかねないと訴えた。
ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のエコノミスト、ゲリー・ハフバウアー氏とジェフリー・ショット氏は、直ちに政策に関する提言をまとめ、「バイアメリカン」条項を強化してもさほど多くの雇用を守ることはできないと主張した。たとえば鉄鋼産業は非常に資本集約的な産業であり、また、インフラ整備事業はすでに米国製鉄鋼の使用が一般化している。新たな法律によって生み出される鉄鋼需要はわずか1000人の雇用を守るにすぎないだろうと予測している。鉄鋼を含む製造業全体に広げてみても、政府が出資するインフラ整備事業で使用される製品のうち輸入品が占める割合はわずか4%。これを国内製品に切り替えたとしても、守られる雇用はわずか9000人にすぎない。
9000人の雇用を守ろうとして、保護主義と反保護主義の対立を誘発するのは理にそぐわない。そこで、オバマ大統領は直ちに反対を表明し、テレビのインタビューで以下のように語った。「米国は保護主義的なメッセージを送ることはできないという考え方に同意する。世界貿易が縮小傾向にある現時点で、米国が自国のみに気を配り、世界貿易を軽視しているように響くメッセージを送ろうとするのは間違いだと考える」。
オバマ大統領は、緊急経済対策法案を可決するには上院の民主党票を一票たりとも失うことはできないという事情があったため、同法にバイアメリカン条項は盛り込んだ。だが、実質的には骨抜きにする戦略をとった。すなわち同法においても、国際的な法的義務すべてに従わなければならないという一節を盛り込むべきだと主張したのだ。
ここにいう「国際的な法的義務」には、米国、カナダ、EU加盟国、日本、韓国、その他の国々が署名しているWTOの政府調達合意(GPA)も含まれる。オバマ大統領の主張に従って盛り込まれた一節のおかげで、これらの国々は、過去何十年間と現状の間で、大きな変化は生じていない。ただし、ブラジル、中国、インド、ロシアなど、いくつかの国々はGPAに署名していない。
結局、ハフバウアー氏によると、法案の最終版は従来からある「バイアメリカン法」より“ほんの少し厳しい”ものとなっただけだ。保護主義を訴える連邦議会のタカ派は、税金は米国の雇用を守るためだけに使われることになったと有権者に説明できるという象徴性を勝ち取り、その一方でオバマ大統領は、修正法案から牙を抜いてしまった。