アメリカが史上空前の経済対策を断行、保護主義に突き進むのか?
第三に、米国経済と諸外国との関係。仮に米国が輸入を制限すると、米国自身も少なからぬ打撃を被ることは明確だ。たとえば自動車産業。米国とカナダで組み立てられる自動車部品の20%は輸入に頼っている。輸入制限を行うと、米国で自動車が生産できなくなってしまう懸念がある。中国との関係も、互いに貿易相手国として依存関係にあるというだけではない。米国が中国から米債購入などで資金提供を受ける必要があるのと同様に、中国は資金の提供先として米国を必要としている。
おそらく、当分の間、オバマ大統領は保護主義的な新たな貿易協定の批准を求めることはしないだろう。新たな貿易協定の交渉を始めることもないだろう。もちろん、どんなに自由貿易志向の強い大統領でも、圧力のすべてに抵抗することはできない。しかし、オバマ大統領も、米国全体としても、すでにいくつかの試練に直面してきた。そしてそのたびごとに、オバマ大統領は国際主義者のスタンスをとってきたし、米国全体もそうだった。その三つの事象を見てみよう。
日本車はビッグスリーの牙城を盗んではいない
米国の保護主義化が懸念される第一の事象は自動車産業についてだ。確かに米国の自動車産業は、1930年代の大恐慌以来の最大の危機に直面し、何百万人もの雇用が喪失の危機に瀕している。いずれかの産業に保護主義的な圧力が集中的にかかるとしたら、それは自動車産業だ。だが、現状は80年代とはまったく対照的だ。GMとクライスラーへの融資救済法案について、連邦議会の主要な議員の中から国内部品調達条項の挿入を求める声は挙がらなかった。
80年から82年にかけての深刻な不況のときは、ビッグスリーの犠牲の上に日系のメーカーが市場シェアを大幅に拡大した。が、今日では、日本が市場シェアを「盗んでいる」と申し立てて日本のせいにすることはできなくなっている。ビッグスリーほど深刻ではないとはいえ、日系メーカーも業績がかなり悪化している。
09年3月の自動車販売台数を07年の平均月販台数と比べた下落率は、GMが51%、クライスラーが42%、フォードが37%。対する日系メーカーもトヨタが39%、ホンダが32%、日産が25%と3割前後の大幅な落ち込みを余儀なくされている。シェアでは確かにGMの低下が5%超と大きいが、クライスラー、フォードの低下は1%以下。対する日系メーカーも、トヨタはシェアを落としているし、ホンダ、日産の上昇幅も1%前後。GMが失ったシェアの大部分は、日本の大手ではなく、規模の小さいメーカーに流れている。ビッグスリーの敵は明確ではなく、日本車への批判の声は小さい。