宮中の着物には、日本の歴史が息づいている 押さえておくべき日本文化の要諦

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「年明け早々は何かと多忙ですが、幕見席でも玉三郎丈の『廓文章』を見たいですね」

そう話すのは、歌舞伎座から徒歩で2、3分の「銀座きものギャラリー泰三」を経営する高橋泰三氏。実はこの打ち掛けは、高橋氏が手掛けたものである。

「最初は『伽羅先代萩』の政岡の衣裳の修理を依頼されました。それがお気に召したのか、その後に衣裳の発注をいただいたのです」

日本一華やかですばらしい衣装を

もともと高橋氏と玉三郎丈とは縁が深かった。高橋氏の亡父が玉三郎丈の後援者だったからだ。

「かつて京都の旦那衆らが作った後援会があり、父はそこのメンバーでした。坂東流の名取でもあったので、玉三郎丈と懇意にさせていただいていたようです。安土桃山時代の小袖など、伝統から学んで着物を作っていた父は、日本で一番華やかで素晴らしい文化を『泰三風』にアレンジし、たくさんのお客様に喜んでいただきました。私も歌舞伎の伝統美を表現しつつ、現代の観客でも感動するような衣装を作りたいと思いました。とはいえ舞台と客席は離れていますので、普通の糸で刺繍したのでは、何なのかがわからなくなってしまいます。そこで刺繍糸は最低12倍から24倍は太く、金糸も最低36倍は太いものを使いました。舞台映えする大胆さに泰三流の上品さも加えなくてはいけませんが、最高の技術を持つ手刺繍職人さんのおかげで実現し、玉三郎丈にも満足していただけたようです」

高橋氏が手掛けた玉三郎丈の打ち掛けはもう1枚ある。「天守物語」で、富姫役を演じる玉三郎丈が亀姫を迎える場面で着用した御簾とくす玉の模様のものだ。

「天守物語」は泉鏡花の原作で、姫路城の天守閣に魔物が棲むという伝説をモチーフにした戯曲。美しき異形たちが耽美的な鏡花ワールドを織りなしている。

「くす玉は薬玉とも書き、古くは中に薬草などを入れて厄除けとしたのです。5月5日はめでたい奇数の数字が重なる『重五』の日ですが、季節の変わり目で体調を崩しやすいため、香り高い菖蒲や蓬を入れて邪気を払ったのでしょう。これが中国から日本に伝わって宮中の『端午の節会』になり、御簾にくす玉を飾り付けることになったのです」

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