「性的指向を変えたい」29歳男性が見た深い断絶

職場の男性に誘われると「緊張」してしまう

ケンイチさんは男性から好意を示されるたびに逃げるように部署異動を希望したり、転職をしたりした。最近では、上司に相談したところ「そんなわけない」と一蹴された挙げ句、相手の男性に「(ケンイチさんが)君のことゲイだと思っているみたいだぞ」と伝えられてしまった。相手の男性がゲイならば、それはアウティング(性的指向などについて一方的に暴露すること)にも等しい行為である。ケンイチさんに対する態度は険悪になり、周囲からもケンイチさんが原因のトラブルとみなされた。結局異動を余儀なくされ、会社からも「次はないと思って」とクギを刺されたという。

異動や転職を繰り返すことで、働き始めた当初、450万円ほどあった年収は、現在は正社員ながら約300万円にまで落ち込んだ。ケンイチさんは「私の仕事の評価が低いのは、セクシャリティーの問題以外にも、うつで残業できないとか、不注意によるミスが多いとか、雑談が苦手で人間関係がうまくいかないとか、ほかにも原因があると思います。薬の購入などにお金を使っているので生活はぎりぎり。いろいろなことが重なってジリ貧に向かっているように感じます」と話す。

自分の希望は社会の流れに逆行している

ケンイチさんにとって何よりつらいのは、LGBTの支援団体や専門家に「性的指向を変えたい」と相談をしても、「取り合ってもらえないか、無視されることが多い」ことだという。ある支援団体の担当者からは「同性愛は医療の対象ではなく、人権の観点から論じるべきだ」と諭された。

絶望のあまり安楽死の権利を訴える海外の団体に問い合わせをしたこともあるが、「セクシャルマイノリティーであることを理由にした安楽死はできない」と言われたという。ケンイチさんは「性的指向を変えたいという自分の希望は、『ありのままを受け入れよう』という今の社会の流れに逆行しているんだと思います」と孤独感を募らせる。

確かに現在、LGBTの権利保障などを訴える運動は「性的指向は自分の意思では変えられない」という認識が一般的な前提である。ケンイチさんの希望はともすれば「LGBTを病気だと思っている」「単なるゲイ嫌悪」「ゲイであることを受け入れられないだけ」といった批判・誤解を受けかねない。私がそう指摘すると、ケンイチさんはこう反論した。

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