それでも「振り込め詐欺」に遭う人がいる理由 なぜ他人の声を息子と勘違いしてしまうのか

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「ニュースでも見ているし、さすがにだまされないわよ」。そう思っている人は、要注意です(写真:EKAKI / PIXTA)
これだけ多くの報道がなされているにもかかわらず、なぜ「振り込め詐欺」の被害はあとを絶たないのでしょうか。詐欺・悪徳商法対策の第一人者で、社会心理学者の西田公昭氏は、長年「なぜ、人はカンタンにだまされてしまうのか」という視点から被害者の心理を研究してきました。今回は、「だまされてしまう人の心の働き」をお伝えします。ご自身やあなたの家族が被害に遭わないために、気をつけるべきこととは。

 

人はどこかで、「自分だけは大丈夫」と思っているところがあります。偽電話詐欺にかかる人は皆、「ニュースでこうした詐欺があることは知っていて、十分気をつけていたつもりだった。まさか自分が被害に遭うとは……」と、口をそろえます。

被害者は皆「私は大丈夫」と思っていた人たち

このように、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう人の特性を、心理学の用語で「正常性バイアス」といいます。バイアスとは偏りという意味で、正常なほう(=自分がそうであってほしいと思うほう)へ偏った考え方をもってしまうために、ついつい大丈夫だろうと思ってしまうのです。

つまり、息子や孫に成り済ましたニセ電話にだまされてしまう人は皆、あなたと同じように「私は大丈夫」と思っていた人たちなのです。

正常性バイアスと似た心の働きに「確証バイアス」というのもあります。これは、ひとたび思い込むと、それが正しいものだと示す情報を、無意識に集めてしまうことをいいます。たとえば、60代の主婦が、一緒に住んでいた娘を語る人物の詐欺被害に遭ったという事件がありました。耳から入ってくる情報は限られていますから、彼女は瞬時に「娘かな」と思ってしまい、「何かへんだな」と思いながらも、結局は「きっと娘に違いない」とおカネを振り込んでしまいました。

この場合、「電話の相手は娘であるはずだ」「私に悪いことが起こるはずがない」と考え、声が娘と多少違うように感じたとしても、「風邪を引いているのかもしれない」と、都合のよい解釈をしてしまうのです。

人は「社会は安全で、多くの人はいい人である」と信じたがる生きものです。あなたもそうではないでしょうか。犯人グループは、そこをついてきます。

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西田 公昭 立正大学心理学部教授/博士(社会学)

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西田 公昭 / Kimiaki Nishida

1960年徳島県生まれ。1984年関西大学社会学部卒業、1991年静岡県立大学助手、1994年スタンフォード大学客員研究員、2003年静岡県立大学准教授を経て現職。カルト宗教のマインド・コントロール研究や、詐欺・悪徳商法の心理学研究の第一人者として、新聞やテレビなどのマスメディアでも活躍。オウム真理教事件や統一協会などの多数の裁判で、鑑定人および法廷証人として召喚される。主な著書に『マインド・コントロールとは何か』(紀伊国屋書店)『「信じるこころ」の科学』(サイエンス社)『だましの手口』(PHP研究所)などがある。

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