日本の「最貧困地域」再生で見た甘くない現実

「西成特区構想」を率いた経済学者の奮闘

ただ、改革の中身以上にどう実行するかが重要と考えていました。本番の「あいりん地域のまちづくり検討会議」の前に、各組織へのドブ板行脚、顔見世興行に飛び回った。地域の事情に明るく、同じ思いの同志“7人の侍”で結束し、役所に都合のよいようにさせない、地域が長年望んできたボトムアップによる町づくり改革をねじ込んでいく準備を重ねた。行政と住民との仲は最悪でしたが、協力してプレーパークを作るとか合同会社を立ち上げるとか、町の改善の一歩となるような小さな成功体験を積み重ねていきました。お互い意思疎通できるようにしとかないことには何も始まりませんから。

お役所と地域住民のハブ役に徹して

──役人懐柔策、彼らが動く論理・動かない論理を知り尽くしての作戦の数々が、面白かったです。

鈴木亘(すずき わたる)/1970年生まれ。上智大学経済学部卒業後、日本銀行入行。98年日銀退職、大阪大学大学院経済学研究科入学、2001年博士号取得。日本経済研究センター、阪大助教授、東京学芸大学准教授などを経て現職。12年3月から15年11月まで大阪市特別顧問、16年9月に東京都特別顧問に就任。著書多数(撮影:梅谷秀司)

そう、結果的に物語の相当の部分が対役所工作の話になりましたね。

日本の行政ってデカいしやっぱりすべての中心。地域だけで大改革は進まない。いかに行政を絡ませるか、巻き込むか。むしろ行政を主役にして動かすくらいのことをやらなきゃいけない。だけど民間の活動家たちにその発想はなかった。

そもそも地域住民の合意を取らずに日雇い労働市場を町に固定させたのが行政。行政代執行や強行策が繰り返されてきた歴史に、今直面している問題の元凶はすべて行政にある、という怨念が地域に渦巻いていた。行政は行政でこの町の合意形成など不能だと思っている。

今回は行政と住民を絡めた改革にすることが最重要だったので、両者のハブ役に徹しました。役人を動かすため、時に華を持たせたり、貸し借り関係を作ったり損得勘定に訴えたり、黒子に徹して出世に一役買ったり便宜を図ったりと、あの手この手。自分が間に入ってリスクは取る責任も取ってやる、だから動けと。

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