日韓最終合意の裏で米政府が進めてきたこと

米国は日韓の和解へ向け努力を重ねてきた

ようやくその時が訪れた瞬間、安倍首相と朴大統領はお互いに非常に気を使いながら会議室に入った。朴大統領は個人的に従軍慰安婦の問題を解決しようと心に決めており、50数名しか残っていない高齢の女性たちがこの世を去る前に解決すべきだと切り出した。しかし、安倍首相が戦争に対する日本政府の公的立場を覆す意図、とりわけ、女性に性的奉仕を強制したことに対する公的責任を認めないことを示唆したため、2人の関係は一気に冷え込んだ。

アジアにおける中国の影響力が増す中で、日韓関係の悪化に業を煮やしたのが米国である。実際、中国は2013年11月に日本と韓国、両国の領海と重なる東シナ海に防空識別圏を設けると宣言し、米政府を警戒させた。

これを受けて、翌月にはジョー・バイデン米副大統領が、日本、韓国、中国を来訪。歴史問題について韓国を刺激するような行動は取らないとの約束を安倍首相を取り付けたと考えたバイデン副大統領は、安倍首相との首脳会談に臨むよう、朴大統領に圧力をかけた。

実はバイデン副大統領による訪問直後、私はスタンフォード大学のアジア研究者グループの一員として朴大統領に面会したのだが、同大統領は明らかに米国からの圧力に不満そうで、安倍首相は信頼できないとの懸念を示していた。朴大統領の「懸念」が正当なものだったと証明されたのは、それからほんの数日後のこと。安倍首相による靖国神社参拝は、バイデン副大統領に大きな衝撃を与えた。

米国が態度を変えた安倍首相の行動

これをきっかけに、米政府内で日本と韓国の歴史問題の議論にかかわることへの重要性をめぐる議論が巻き起こった。米国が直接的な仲裁役を果たすことは危険とのスタンスに変りはなかったが、オバマ大統領主導により、日本、韓国両政府に対する米政府からの圧力はより目に見える形で行われるようになった。

2014年3月には、オバマ大統領はハーグで、北朝鮮を焦点とした核安全保障首脳会議の延長として三国間会議を主催した。さらに翌月では日本と韓国を訪問。日本では公の場で安倍首相に圧力をかけないように努めたが、韓国では、従軍慰安婦問題について「人権を実にひどく、甚だしく侵害した」と発言した。

その後、1年半で日本と韓国の外務省関係者らは12回面会したが、交渉にほとんど進展は見られず、結局のところ両国トップの政治的意思がないままでは前進しないことが明らかとなった。そこで、米国は静かに、そして非公式に両国に圧力をかけ始めた。

「米国務省やホワイトハウスは今回、安倍首相を動かすために極めて重要な役割を果たした」と、交渉にかかわったある韓国高官は話す。「加えて米国側は、韓国政府関係者がワシントンを訪問する際はいつも、韓国側に隠し事をすることなしなかった」。

実際、安倍首相にも米国側のメッセージは伝わっていたはずだ。それは、2015年に河野談話を覆さないとの約束を明言するために米国を訪問したことや、昨年の戦後70年談話で韓国を刺激することを避けたことからも明らかである。

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