本末転倒の金融行政、無責任な政治圧力に屈する危うさ
第二に、3年間の時限措置として、国債の評価差額について損も益も自己資本比率の計算に反映させないこととし、地銀の多くが採用する国内基準では、社債や株の評価損益も反映させなくてよいとした。
これらの措置の採用で、例えば三菱UFJフィナンシャル・グループでは第3四半期では、有価証券の含み損が約1700億円減っている。リスクアセットが減ったわけでもなく、資本を増強したわけでもないのに、見掛け上、自己資本比率が上昇する銀行が続出している。
第三に、金利減免など、貸し出し条件を緩和した債権は、従来、3年以内に健全化する見込みがなければ不良債権に該当したが、この3年が、5年から最大10年まで延長されることになった。
第3四半期で貸し出し条件の緩和が行われた債権は大手行では3211件、1847億円、地方銀行・第二地方銀行では1万8912件、7453億円だったが、うち、不良債権に該当しない貸し出し条件緩和債権は大手行で2635件、910億円、地方銀行・第二地方銀行で2474件、1254億円に上る。リスク管理債権ベースで見た貸し出し条件緩和債権や金融再生法基準で見た要管理債権が第2四半期末よりも減少している地銀が大半である。
数字をごまかしていると、いきなり、破綻債権が増える可能性もあるのに、今の“見掛けの不良債権の減少”で、過去に積んだ引当金の取り崩しが発生している。「会計の継続性、財務の健全性確保の観点からいかがなものか」。銀行の財務担当者の多くは困惑している。
予防的資本注入では済まない
政治家の多くが言ってきたように前提として、「日本の銀行が、欧米の金融機関と異なり健全」であるなら、「危機対応の政策総動員」としてそれも、認められるかもしれない。
しかし、問題はその前提が疑わしいことだ。銀行決算は急速に悪化している。08年4~12月期で地方銀行、第二地方銀行109行のうち半数近い50行が最終赤字、都市銀行5行のうち2行が赤字となった。
融資先企業の倒産の多発や財務状況の急悪化で貸倒償却や貸倒引当金などの与信費用は増加。さらに株や投資信託、証券化商品などの有価証券の価格の大幅な下落による減損が打撃となった。足元の世界的なデフレスパイラルの状況から、09年度も損失は拡大する可能性が高い。