本末転倒の金融行政、無責任な政治圧力に屈する危うさ
3月10日、中小企業向け融資を増やす対策が追加された。中でも、金融機関に緊張が走ったのが、「集中検査」。年度末に向けて、中小企業向け融資の姿勢について特別ヒアリングを行い、その結果、大手9行と貸し渋りの苦情の多かった地域金融機関には、4~6月に集中検査を行う。行政処分もありうるという。
珍妙な検査もあるものだ。融資は銀行の本業。本業に精を出すのは当然だ。貸さないのは不良債権化が懸念される先だからではないのか。
禁じ手を濫発する当局
金融庁の検査における姿勢は昨年、豹変した。2007年度前半までは、融資先の債務者区分を厳格化させる方向で指導が行われ、検査が入った銀行が、貸倒引当金がどっと増えて、赤字に転落するケースが頻発した。ところが、昨年の秋以降は、銀行が融資を断った「謝絶リスト」がつぶさに検証され、債務者区分も「厳しすぎるのではないか」という指摘が増え、貸し渋り対応検査へと、180度変わった。こうした圧力がさらに高まることになる。
08年10月以降、中小企業向け融資を促すさまざまな支援策が導入された。民間銀行は不良債権の拡大を恐れる。そこで、保証協会が100%損失を保証する緊急保証制度や政府系金融機関による融資枠が設けられ、リスクを税金で負うことになった。
また、銀行には預金を保護し、決済システムを守るために、自己資本比率規制が課せられている。リスクアセット(資産にそのリスクに応じた掛け目をつけたもの)に対して、国際業務を行う銀行は8%以上、国内業務のみの銀行は4%以上の所要資本額が定められている。資本が不足すれば、リスクアセットの削減のために融資が減らされかねない。そこで、金融機能強化法を復活・改正し、銀行への公的資金注入による資本増強ができるようにした。
緊急保証制度はカンフル剤、一時しのぎにすぎないことが多いがその議論はひとまず置くとして、見逃せないのは、貸し渋り対策の中に、銀行の財務状況を曖昧にし、その悪化を見過ごす懸念のある禁じ手も相次いでいることだ。資本規制の数値を悪化させないための基準変更だ。金融庁はこれを“弾力化”と呼ぶ。
第一に、以前にこの欄でも触れた有価証券の時価会計の緩和。評価に市場での取引価格ではなく理論価格を採用してもよいとし、債券の保有区分の変更を認めた。評価損益は規制上の自己資本に反映されるため、その影響を減らそうというものだ。