スタンフォードで体得した! 効率よく知力を鍛える勉強法《若手記者・スタンフォード留学記 29》
その理由は、きっと、ベテラン教授と若手教授が同じことを言っても、その結論に至る過程に差があるからでしょう。やはり、30年の経験と1万冊の読書から引き出された言葉には、10年の経験と3000冊の読書から生まれたそれとは違う説得力があります。
とくに歴史の素養が求められる、国際政治といった分野ではなおさらです。若手の論文より、キッシンジャーやブレジンスキーといった重鎮の本を読む方が断然面白い。
実際、売文の世界でも、長生きするのは、インプットに秀でた著者です。
私が一読者として、著者を評価するポイントは、書く文章、作品に新しい見識・情報が含まれているかどうかです。同じことの繰り返しが増えてきたら、その著者の寿命切れが迫っている合図です。
たとえば、外交ジャーナリストの手嶋龍一氏。『ウルトラダラー』が面白かったので、次回作に期待していたのですが、その後出てくる著作も雑誌インタビューも同じ話の繰り返しか、薄い話ばかり。あまりのネタ切れの速さに、ガッカリした記憶があります。繰り返しを多用していると、一見さんの目は誤魔化せても、コアなファンは離れていきます。
勉強とは基本的に自習
では、知力のコアとなる、インプット能力を高めるにはどうすればいいでしょうか。
濫読や、疑問が浮かぶ度にそのつど調べるのもいいのですが、一度まとめて体系的に知識を仕入れるのが王道ですし、長い目で見て効率的です。
私の一番のお勧めは、有名教授の授業のシラバス(授業の構成や課題図書などをまとめて記したガイド)を参考にして、そこに記されている課題図書を徹底的に読み込むことです。そうすれば、あるテーマについて、専門家と話しても恥ずかしくないだけの知的ベースができ上がります。最近は、多くの教授が自身のホームページや大学のサイトでシラバスを公開していますから、入手は簡単です。
論文の多くは、無料でダウンロードできますし、書籍を購入するとしても、実際に授業を受けるのに比べれば、格段に安い。集中すれば、教授が3、4カ月かけて教えるすべての課題図書を、1~2週間で読破できます。
たとえば、中国の外交政策について網羅的に勉強したければ、オクラホマ大学のピーター・グリース氏のホームページを訪れて見てください。「中国外交」など、氏が教える授業の教材が全てリンク付で記されています。
ほかにも、アメリカから見た日本の近現代史・外交・政治・安全保障について体系的に知りたければ、MITのリチャード・サミュエルズ氏のシラバスがお勧めです。氏の著書『Securing Japan』とケネス・パイル・ワシントン大学教授の『Japan Rising』は、日本の近代から現代の外交史を英語で学ぶ際の良書です。