完全雇用なのにGDPが伸びないのはなぜ? 日本型雇用の変革がカギを握る
以上をまとめると、人手不足の中、高い生産性が期待できる若年労働者の正規雇用を本来増やしたいところ、少子高齢化の下でそれらの層の供給が不足しているため、短時間労働しかできないリタイア層の再雇用や女性の活用によってしのいでいるという現状が見えてくる。その結果として表れる労働生産性の低迷が「雇用と景気のズレ」をもたらしている疑いが強い。
高齢者や女性の活用が進むことによって、労働参加率が高まってくることは日本経済にとって望ましい。だが今のところ、それが成長率に直結している様子はない。労働時間の伸びを伴って労働投入量が増えるのでなければ、成長への寄与もそれなりのものにとどまる。
浮かび上がってくる日本型雇用の課題
少子高齢化が所与の条件とすれば、本来、日本にとって最善の状態はリタイア層や女性を、正規雇用やそれに準じる条件で雇用することである。だが、日本特有の雇用慣行が幅を利かせる中で、その実現が難しい。
例えば、「いったん雇うと定年までは解雇不可能だが、定年になれば強制退職」といった慣行の下では、65歳以上のリタイア層を正規雇用するのが難しい。何故ならば、荒っぽく言えば「定年で強制的に解雇できる」ということが、「それまでは解雇できない」ことに対する調整弁になっている側面があるからだ。また、「一度正規雇用から退場したら復帰が難しい」という制度の下では、女性が結婚や出産後に復帰するには、パートタイムなどとしての参加を余儀なくされやすい。頻繁な配置転換を伴う日本型雇用の下では、専門性の蓄積は多くを期待できないため、専門性を評価されて退職前と同様の処遇で復帰するという形も一般的ではない。
頻繁な配置転換や慢性的な長時間労働は従来からある終身雇用制度を円滑に運営するためのシステムである。既存の労働力を最大限活用することが課題となっている現在の日本において、生産性を高めていくためには、制度疲労を起こしている日本型雇用制度から変えていく必要がある。この点、雇用制度の見直しや新しい働き方といったテーマを課題としている安倍政権の取り組みの進展を期待したい。
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