恐怖心からアメリカ人がトランプを選ぶ悪夢 あと1回、テロが起こったら何が起きるか

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米国では毎年1万人以上が銃で命を落とすが、そうした犯罪にイスラム教徒はほぼ関与していない。にもかかわらず、イスラム教徒は危険すぎて、少数の難民でさえ受け入れられないと言われているのだ。

イスラム過激派のテロが米国やそれ以外の国で起こる可能性は否定できない。仮にテロが起きたら、不安から扇動的なリーダーに票を投じてしまう米国民も増えるだろう。米国の友人も、「あと1回テロが起これば、トランプ氏が大統領になるかもしれない」と言っていた。

もちろん私も、米国の有権者がそこまでバカだとは思わない。ただ多くの政治家が扇動的な思想に染まってしまうと危険だ。比較的分別ある人物だと見られていたオランド仏大統領でさえ、パリ同時多発テロ以降、右派の政治家からの非難を恐れて国家非常事態宣言を発令、ISに宣戦布告した。

非常事態宣言が継続するかぎり、警察は令状を持たなくても、市民を逮捕できる。今やフランス国民の多くが、テロへの恐怖から排外的な政策を支持するようになっている。

しかし、そうした政策は建設的とはいえない。そもそも国家元首が宣戦布告できる対象は国家であって、革命家らのネットワークではない。また、ISをいくら空爆しても、社会に不満を抱く若者の問題を解決することはできない。

イスラム教徒排斥はISを利するだけ

ISのリーダーは「敵か味方か」といった極端な思想に染まり、「真のイスラム教徒は、欧米と存亡を懸けて戦う」と述べて支持基盤を拡大している。彼らにとっても恐怖心が最も強力な武器なのだ。

従って不安だからといってイスラム教徒を排斥すれば、若者が一層、ISへ流出してしまうだけだ。イスラム過激派の暴力に対抗する唯一の手段は、欧米のリーダーが共に暮らし、法律を順守しているイスラム教徒の信頼を得ることだ。簡単ではないが、恣意的な逮捕が正しい方法ではないことは確かだ。

米共和党の大統領候補らはパリ同時テロをめぐり、オバマ大統領を弱腰と批判した。民主党の最有力候補のヒラリー・クリントン氏でさえ好戦的な態度で、オバマ大統領と距離を置いている。一方、オバマ大統領はパニックに陥ることなく、一貫して開戦を踏みとどまっている。臆病者と彼を揶揄する者よりも、はるかに勇敢といえる。

週刊東洋経済1月9日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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