2015年の大相撲界、心に響いた「10の言葉」 舞台裏で発せられた力士や親方たちの肉声

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なぜ「今日からの3回だけ」なのか。

行司の世界は、入門順の年功序列で出世する。定年は65歳。2人は同じ56歳だが、伊之助の方が勘太夫より初土俵が1場所だけ早く、誕生日は約3カ月遅い。通常なら勘太夫は、誰もが夢見る庄之助になれないまま定年を迎えるのだ。入門した時は15歳。その時から変わらぬ運命を背負って、半世紀もの間、行司を務め続ける。

そして、あのコメント。勘太夫は3日間、何事もなく裁き切った。流れる水のごとく、自然な立ち振る舞いだった。

九、「これからは笑顔だけでいきますよ」(高砂親方)

高砂部屋の朝弁慶が九州場所での新十両昇進を決めた。

高砂部屋といえば、不祥事がきっかけで引退した横綱朝青龍も有名。高砂親方(元大関朝潮)は会見で「あの時は悪いことばかり。みなさん(報道陣)に追いかけ回され、車も傷つけられ、俺の心も傷ついたけど、気分いいね。これからは笑顔だけでいきますよ」と話し、報道陣の大爆笑を誘った。

高砂部屋は、部屋創設の1878年(明治11年)から関取が途絶えたことがない。秋場所までは朝赤龍だけだったが、9年ぶりに新十両が誕生し、部屋にとっては久しぶりに明るい話題となった。

高砂親方は今も、朝青龍のことをあまり語りたがらない。重くなってもおかしくないその場のムードは、笑い話で吹き飛ばした。

今は亡き理事長のあいさつ文

十、「北の湖敏満、代読、八角信芳」

日本相撲協会は、本場所の初日と千秋楽に「協会挨拶」を行う。理事長が三役以上の力士を従えて土俵に上がり、あいさつ文を読み上げるのだ。

九州場所13日目に北の湖理事長(元横綱、享年62歳)が急逝して迎えた千秋楽でのこと。八角理事長代行(元横綱北勝海)は、挨拶の最後をこう締めくくった。

「平成27年11月22日、公益財団法人日本相撲協会理事長、北の湖敏満、代読、八角信芳」

文中で訃報には触れず、最後に今は亡き理事長の名前を読んだ。そして、あえて代読とした。最後は涙声だった。その後、八角親方に「誰が文章を考えたんですか?」と舞台裏を聞いた。すると「周りのみんなと相談してね。本人がいちばん、土俵に立ちたかっただろうね」と教えてくれた。

華美でも地味でもない、粋なはからいだった。

佐々木 一郎 日刊スポーツ新聞社編集局スポーツ部次長

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ささき いちろう

ささき・いちろう 日刊スポーツ新聞社編集局スポーツ部次長。記者として五輪、サッカー、大相撲を担当後、2013年4月から大相撲などの担当デスク。ツイッターのアカウントは@ichiro_SUMO。月刊相撲(ベースボールマガジン社)で「稽古場物語」をイラスト入りで連載中。

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