P&Gで人事に大ナタ、問われる日本の存在感 トップ交代、自社ビル売却の意味は何か

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現在、P&Gが日本市場のシェア首位を守るカテゴリーは、「アリエール」を持つ衣料用洗剤のみ(2015年、ユーロモニター調べ。)。食器用洗剤や生理用品では、10年間で数%ポイントシェアを落としている。その原因をライバル社幹部は「特殊な要素の多い日本をいまだアジアの一つと見ているフシがある」と評する。

親会社の米P&Gも今や余裕がなくなってきた。2015年6月期は、ドル高の逆風や中国市場でのシェア低下を受けて、7四半期連続減収。CEOのアラン・ラフリー氏は10月に道半ばで退任している。

ラフリー氏といえば、2000年代のP&Gに興隆をもたらした中興の祖で、カミソリ大手ジレットなどに大型買収を仕掛けた。一度はCEO職を譲ったが、立て直しのため2013年から再登板。2015年7月には、「マックスファクター」など43の美容関連ブランドを、仏コティに125億ドル(約1.5兆円)で売却し、不採算事業のリストラを断行した。

アジアの本部はシンガポールへ

売却された神戸・六甲アイランドの自社ビル(撮影:ヒラオカスタジオ)

構造改革のあおりか、P&Gジャパンも、アジア市場における「核」としての役割を、一段と縮小させている。

2009年にはP&Gのアジア本部が日本からシンガポールへ移管。2010年代に入るや、重要であるはずの研究開発やマーケティングの機能も、徐々に同国へ移されている。中国や東南アジアはじめ、拡大の望める新興国市場強化に向け、経営資源を集中させた。P&Gジャパンは、一部の研究開発部門と工場などを残し、ほぼ販社と化した格好だ。

空きの目立つ神戸市・六甲アイランドの自社ビルも売却、面積を2分の1に縮小し、今年春から同市三宮のビルをテナントで賃借する予定。「売上高を大きく伸ばせない日本は、技術を進歩させる拠点としての存在意義しかなくなった」(みずほ証券の佐藤和佳子アナリスト)。

競合の花王やユニ・チャームが高付加価値路線に転じつつあるのに対し、同じ路線を目指しながらも、「パンパース」の低価格ラインを新発売するなど、価格戦略に一貫性のなかったP&G。べセラ社長は今後の方針として、一層の高付加価値化と、40以上ある日本未上陸のブランドの新規投入も示唆した。存在感の薄くなる一方の日本で巻き返せるか、「世界のP&G」の真価が試されている。

「週刊東洋経済」2016年1月9日号<4日発売>「核心リポート03」を転載)

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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