鉄道各社が「座れる通勤電車」を走らせるワケ 毎日が快適度アップ!沿線人口増で増収狙う

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終点の東武アーバンパークライン運河駅に到着した「きりふり267号」

「TJライナー」の利用客数の伸びは堅調で、登場後、下り夜間の池袋発の列車が増発された他、2016年春には朝の上り池袋行きも新設される予定になっている。だが、50090系は日中も急行などに、ロングシートの状態にして使われ続けるのは変わりないだろう。

他方、座席指定特急運転の長い歴史を持つ会社でも、運転区間の拡大が目立った。南海電気鉄道は泉北高速鉄道を傘下に納めたのを機に、同線のサービス改善に取り組んでいる。やはり12月5日からは、難波~和泉中央間に座席指定特急「泉北ライナー」の運転が始まった。朝夕ラッシュ時とも走り、一気に下り6本、上り7本(平日の場合)も設定されたのが話題で、年末の繁忙期を好機として、利用客の支持を得ようという意図がはっきりと見て取れる。

南海ほど大規模な着席サービス拡大ではないが、野田線に「東武アーバンパークライン」との愛称を付け、沿線開発や路線の改良を進めている東武が、やはりこの12月、浅草~運河(千葉県流山市)間に22日までの金曜と祝日前日の深夜、東武アーバンパークライン直通の臨時特急を片道1本、初めて運転し注目を集めた。

この「きりふり267号」は浅草を出ると、とうきょうスカイツリー、北千住、春日部と停車。東武アーバンパークライン線内は各駅に停まる。東武が大規模な住宅開発を進めている清水公園や、主要都市である野田市などへの帰宅の便を図ったものだ。

12月11日に試乗してみた時には鉄道ファンの乗車が多く、停車駅では写真撮影の輪ができていたが、野田市方面への帰宅客らしき姿もかなり見られた。乗車率は半分ほど。1本の臨時列車だけだと帰宅のタイミングに合わせるのも難しいものだ。増発、定期列車化はまだ遠いと思われる。

「座れる通勤」で沿線価値向上狙う

だが、この直通特急を東武アーバンパークラインの魅力の一つとすることで、東武が「沿線価値の向上」に対して意欲的に取り組んでいることは、よくわかった。

「モーニング・ウィング号」や「泉北ライナー」もそうだが、右肩上がりの利用客増加が見込めなくなってきている昨今。増客、増収を図るというより、沿線の主要都市を「座っての通勤ができる、魅力的な町」とし、これをアピールすることが、鉄道会社のより重要な目的であると感じさせる。

定期券代は会社負担だが、特急券は自腹。毎朝毎夕だとさすがに厳しいが、疲れた時などは快適なシートに座り、帰宅時には缶ビールで一献というのもいい。そういうことができる町は限られる。できれば、そこに住みたいなと思うのも、自然なことだ。
 

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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