もっぱら消費者物価の上昇を狙う政策は誤り 物価指標ならGDPデフレータに注目すべき

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2度にわたる石油危機を経験してきた筆者のような者には、原油価格の上昇が日本経済にとってよいことだとは考えにくい。しかし、「デフレ脱却=消費者物価上昇率2%」という単純な公式だけで考えると、原油価格が上がればデフレ脱却が実現するので、原油価格の高騰は日本経済にはよいことになってしまう。

原油価格が大幅に上昇すれば、消費者物価も上昇して2%に達することになるだろう。しかし、それでは2014年春に消費税率の引き上げで消費者物価が3%以上上昇したときと同じである。原油価格上昇による物価上昇では企業の利益は圧迫されてしまい、賃金を引き上げることができない。

当然、所得の増加は物価上昇に遠く及ばず、家計は消費を切りつめる以外に対応の余地がなくなる。消費税率の引き上げ分の所得は、財政赤字の削減という形で日本国内に残った。しかし、原油価格の上昇で起こった物価上昇分の所得は、原油輸入代金の支払い増加という形で海外に流出してしまう。

これをGDPで見ると、輸入デフレータの上昇率が大きいことがGDPデフレータの上昇率を大きく押し下げるという形になって表れる。企業収益が悪化して賃上げどころの話ではなくなってしまい、持続的な物価上昇と経済の拡大は期待できない。

賃金が上がらないと意味がない

デフレで賃金が上がらないのも困ったことだが、物価も上昇しないので消費者はまだなんとか生活していける。物価は上がるが賃金は上がらず、消費者の生活は苦しくなるだけというのは最悪だ。このような状態は、第2次石油危機後に欧米諸国が陥った、スタグフレーションの罠だ。

デフレ脱却の最終的な目標はGDPの拡大である。昔から、エコノミストは実質GDPの拡大を重視し、企業経営者は名目GDPの拡大を重視する。エコノミストとしては、現時点でも、実質GDPが大事だといいたいところだが、政府債務問題の解決も大きな課題である。税収に直結しているという意味でも、デフレ脱却という意味からも名目GDPの拡大が重要となっている。

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