以前は、社内の組合に駆け込めば、そこで退職勧奨が止まっていたが、最近では解雇に踏み切るようになっているという。今回のマニュアルとは別の、日本IBMの社内資料にも、「退職しない意思が固いことが確認された場合は、それ以上のアプローチは不要」という冷徹な一文があった。
しかし、能力不足による解雇は、認められるハードルが非常に高かったはずだ。労働者の同意がなければ辞めさせることが難しいからこそ、こうした自発的な退職を導くマニュアルが存在するのではなかったのか。
「今や、会社は、『みせしめ』の解雇をしてくる。たとえ負け筋であったとしても、会社が解雇までして裁判で徹底的に争う、という強硬な姿勢を示せば、勧奨の段階でスムーズに事が運びやすくなるという効果を生むからだ。日本IBMの会長が、自ら『リストラの毒味役』と言ったこともあり、次々と新しい手法を導入し、先頭を切ってチャレンジしてくる」(同)
労働者はどこまで闘うか、線引きが難しい
現在の労働法の考え方からすると、労働者は、客観的合理的な理由と社会的相当性がある解雇事由がなければ、定年まで自分に仕事と給与を与えることを求めて、裁判を続けることも可能だ。ただ、必要とされていない会社と裁判闘争をして職場に復帰することが、本当に得策と言えるのかは難しいところ。
マニュアルによると、他社の事例として、「今後、やりがいのある仕事を提供してもらえそうもない」「これまでの貢献について、感謝の気持ちを会社が示してくれた」「今後、これだけの割増賃金はないだろうと判断した」といった気持ちになると、対象者は退職勧奨に応じることが多いとされていた。
しかし、会社がたとえ負け筋でも解雇にまで踏み切ってくるというのは、問題がないわけでもない。労働者からすれば、裁判を闘い続けることは大きな負担となるため、そのことがプレッシャーとなり、退職に追い込まれる形になる。これでは、事実上の「クビ切り」と変わらない状態を作り出すことも可能となる。
日本IBMは、取材に対し、「当社では、急速に変化する市場ニーズに対応するため、常に最適なスキルと人材の配置を図っています。 社員それぞれのキャリアは社員の選択によるものです」とコメントしている。あくまで合意の上で、社員が自ら選択しているとの説明だ。
会社が仕掛けてくる、様々な「合法的」リストラ戦略に対して、どこまで闘うのか、どのタイミングで決断をするべきか。働く側は、精神的にも金銭的にも難しい選択を迫られることになる。
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