適正なドル円相場を考えるうえでは、米国と日本の2カ国間の物価動向を比べ、通貨の相対的な価値を測るという方法があります。米国では2014年の消費者物価指数が2000年と比べて35%も上がったため、この間にドルの購買力は35%下落しています。これに対して、日本では2014年の消費者物価指数は3%下落しているので、円の購買力は逆に3%上がったことになっています。日米の物価動向を反映すると、長期的なドルの価値は円に対しておよそ38%下落しているはずだと考えられるわけです。
購買力平価が長期的にドル安円高の方向に動いているのは、米国の物価上昇率が日本の物価上昇率より高い状態がずっと続き、ドルの円に対する価値が落ち続けたことを示しています。実際のドル円相場も、数年単位で激しい動きをしながらも、結局のところ、長期的には購買力平価のトレンドに回帰することを繰り返してきました。その意味では、インフレが進む国の通貨価値は下がり、逆にデフレが進む国の通貨価値は上がるという購買力平価の考え方は、とても説得力があるといえます。
消費者物価指数ベースで考えると、購買力平価は今のところ1ドル100円~105円あたりになります。また、企業物価指数ベースで考えると、購買力平価はさらに円高方向に振れ、1ドル95円~100円あたりまで上昇します。12月8日時点のドル円相場は123円台で推移しているので、現状では消費者物価指数ベースの購買力平価よりも18%~23%程度、円安方向に乖離していると考えられます。
劇的に改善した日本の経常収支
ですから、やや控えめな購買力平価で判断してみても、2016年~2017年にドル円相場は100円~105円の範囲内に回帰するのが自然な流れであると言えるのです。さらには2014年~2015年にかけては、短期および中期の相場予測に有効な経常収支においても、大きな変化が見られ始めています。米国の経常収支が原油輸入の減少により徐々に改善傾向を示している一方で、日本の経常収支は2014年を底にして2015年には劇的に改善してきているのです。
日本の2014年上半期(1月~6月)の経常収支は0.5兆円の赤字でしたが、下半期(7月~12月)には3.1兆円の黒字に転換し、2015年上半期(1月~6月)には8.1兆円と黒字額を大幅に増加させています。そのうえ、2015年7月~10月までの4カ月間で6.3兆円の黒字を積み上げて、2015年通年では黒字額は16兆円~18兆円にまで膨らむ見通しにあります。購買力平価だけでなく経常収支の推移を見ても、今の123円台の円安は正当化することができないわけです。
今のドル円相場は、日米の金融政策の方向性が真逆になるなかで、両国の金利差が拡大するという短中期的な相場予測の要因により、大きく歪んでしまっているといえます。大きく歪んでしまった相場が正常化に向かう過程では、「円安トレンドが終わり、円高トレンドが始まる」と考えるのが必然的なのです。
なお、外貨投資に関して私は、2012年12月にドル一極投資に集中し、今月に入って123円台ですべて売却しましたが、2016年にドルの買い場がまったくないわけではないと予想しています。その理由については、ブログ『経済を読む』で述べていますので、興味がございましたらご覧いただければと思います。
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