塩田潮
26日、衆議院での消費税増税法案の採決で民主党内から72人の造反者が出た。「民主党分裂」が次の焦点だが、振り返ると、自民党の巧妙な政権奪還戦略が透けて見える。
増税実現と「決められない政治」打破を目指す野田首相は、民主党内の反対派を捨て、自民党との連携を選択した。自民党は当初、民主党の不統一を批判していたが、途中から首相側に「反対派切り捨て」を要求し、それが民自連携の条件と言い始めた。二者択一を迫られた野田首相は、民主党の分裂覚悟で丸呑みしたが、自民党の「思うつぼ」である。
振り返ると、自民党は1993~94年の野党時代、あの手この手で与党分断を仕掛け、「反小沢」感情が強かった社会党の政権離脱に乗じて羽田内閣を総辞職に追い込み、自社さ連立樹立で与党復帰を果たした。
再び野党に転落した自民党は野田政権発足後、民主党の失速を見て早期の総選挙による政権交代を想定し、解散を要求し続けたが、途中から18年前の成功例である与党分断作戦の併用に切り換えた。94年は反小沢勢力の離反、今度は小沢グループの造反という違いはあるが、分断の切り札は同じ「小沢カード」だ。
この先、18年前と同じように与党分裂による政権崩壊と自民党の与党復帰と進むのか、それとも「同じ失敗は2度繰り返さない」と気づいた民主党が瀬戸際で分裂回避を果たすのか。どっちに転ぶにしろ、2つの「歴史の教訓」を生かせるかどうかが決め手となる。
自民党は94年に政権に復帰したが、永田町のパワーゲームによる国民不在の政権交代で、有権者の目は厳しかった。95年の参院選で自社さは総崩れとなった。一方、非自民側の政権崩壊は自己主張が強い「わがままリーダー」たちの遠心力による自壊が原因だった。
自民党は「永田町政治」を超えられるかどうかが18年後も大きな課題だ。自民党はいざとなれば権力や権力願望を接着剤にして一致団結するが、民主党は今も求心力より遠心力の党である。民主党の場合は、「権力を接着剤に」という知恵とノウハウの習得が必要だろう。だが、現状では、残念ながら両党とも過去と同じ落とし穴にはまる可能性が高い。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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