ラジオには、まだまだ大きな可能性がある 南海放送、CBCラジオが好調な理由とは?

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田中和彦(たなか・かずひこ)/1954年愛媛県伊予市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。77年南海放送にアナウンサーとして入社。ニュースキャスター、スポーツ中継を担当。ラジオ局長、編成局長、取締役メディア統括室長などを経て2012年取締役常務執行役員社長室長、14年6月代表取締役社長に就任。ラジオの制作作品に、「赤シャツの逆襲」「独眼流のゆううつ」「平成オランダおいね考」「ソローキンの見た桜」「風の男 BUZAEMON」ほか

生き残りをかけて、今治のタオル産業はコストを中国並みに落とそうとした。当然、品質は悪化する。中国で現地生産を始める会社もあった。デザイナーズブランドのタオルを製造する会社は、ブランド使用料の値上げを理由に問屋から価格を下げられ、もはや自分たちで新商品を開発しようという気力はなくなっていた。

そんな状況を変えようと、2005年に四国タオル工業組合の理事長が立ち上がった。質の良いタオルを高く売る戦略に切り替え、佐藤可士和さんをブランドプロデューサーに招いて、「今治タオル」というブランドを作り上げた。

この復活劇にはラジオへのヒントがいくつも詰まっている。

一つは、AMラジオの将来を考えるブランドプロデューサーが各社にいるだろうかということだ。目先の収支や聴取率から離れ、もっと大枠で考えてブランドイメージを作れる人が必要だ。もう一点は、当時の理事長が約120社の社長、いわば一国一城の主を一人一人説得して回った粘り強さだ。コストを下げて頑張っている人に、コストの高い製品を提案したのだから反対も多かっただろう。

では、我々はラジオ・テレビ兼営局の中にいる「ラジオに理解のない人たち」を一人一人説得してきただろうか。

今治タオルには水につけたら3秒で沈むという品質の最低条件がある。生産者はこれを守らなくてはならない。さらに抵抗があったのは、組合からタグを一枚5円で買って縫い付けることだった。工程が一つ増えて手間がかかる。理事長は、タグの代金は組合の維持やブランド戦略に使うと言って社長たちを説得した。

同じことをAMラジオはできるのではないか。番組の質を上げるために、例えば、放送批評懇談会の三ツ星とか、モンドセレクションのように、コンテストで行っている評価を日常の番組に導入できないかと妄想している。

今治タオルのブランド化を手がけた佐藤さんは、「今の日本にはモノがあふれている。しかし、買う人の数は減っている。一定の存在価値をきちんと伝えることを考えていかなければ時代を乗り切れない」と言った。我々の業界に当てはめれば、今の日本にはメディアがあふれ、人々の接触時間は減っている、ということだろう。

AMとFMのコストの違い

では、ローカル局の我々がしてきたことを報告したい。私自身はデジタルラジオの夢を描いていたが、各局の考え方の違いから実現しなかった。5年前には南海放送はラジオの分社化を検討した。しかし、このエリアでは成り立たないことが試算によって判明し、断念した。

次に考えたのは、受信機の端末を増やすことだった。ラジオを配る資金力はないので、CATVにラジオの映像付き同時再送信を入れ、チャンネル化してもらった。これにより、松山、今治、新居浜など20万世帯で聞けるようになった。20万個のラジオを各家庭に配ったことになる。スタジオにカメラを入れたところ、ラジオのディレクターは、最初は大反対だった。「我々は音の世界で生きている」とか「画面の操作に気をとられて放送事故が起きる」などと言われたが押し切った。リスナーからは「今、見ています」というメールがたくさん来ている。

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