ラジオには、まだまだ大きな可能性がある 南海放送、CBCラジオが好調な理由とは?

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この戦略は正しいが、反面、若者を切り捨て、セールスもしてこなかった。今、スタートした若者番組は営業的にも売れている。ターゲットがはっきりしているから、通信、アプリ関係を中心に好調で、黒字になっている。やはり、やるべきことはやり、ダメならまた別のことをすればいい。

ラジオの強みは到達したあとの深さだ。リスナーと話すと、テレビの視聴者より熱意がはるかに強い。なぜこの深さが可能になるのだろうか。私はテレビの編成の経験もあるが、ラジオにはGRP(延べ視聴率)と分計がないからだと思う。数字=金は、わかりやすく、すばらしいビジネスモデルだ。しかし、1%の数字を積むために、深く刺さることを捨てなくてはならない場合がある。ラジオの制作者は、聴取率調査のとき以外は、思いきり振り切れる。何が面白いかを第一に考えてコンテンツを作れるのだ。もはやラジオは単なるリーチメディアではない。リーチの量ではなく質が強みだ。例えば、CBCラジオの夏祭りは年々規模が拡大し、動員力を増している。この刺さり方の深さという付加価値をどう「見える化」するかが大切だ。

最後に、各局すぐにできる事例を紹介したい。今年8月、土曜の各ワイド番組で常滑の町を一日特集した。営業が地方自治体を攻めたいと常滑市商工観光課に行き、「常滑焼まつり」を提案されたのがきっかけだ。市にスポンサーを紹介してもらい、商工会議所の協力も得て、広告会社と一緒に売って完売した。リクシルのようなナショナルクライアントが、その地域だから出すといって買ってくれた。常滑市はチラシまで作ってくれ、市民にCBCラジオを聴くように呼びかけてくれた。局全体で現地にいくとコストも手間もかかるので、朝の番組の人気パーソナリティと中継車だけを出した。それでも一日を通して一体感のある番組ができた。どの市にも売り込みたい日は一日ぐらいある。お金は出さないでいいからスポンサーを紹介してと頼めばいい。

<セミナー参加者からの質問と回答>

Q リスナーに深く刺さっている事例は?

升家:平日午後のワイドを担当している北野誠が、毎週月曜にリスナーと飲む会、「マコ酒RUN」を自腹で開いている。既に190回以上行われ、毎回40〜50人が集まるので、もうすぐ1万人になる。飲んでしゃべって悩みを聞き、一緒に写真を撮る。北野にとってもネタの宝庫だ。名古屋だけではなく、東海三県に足をのばす。CBCラジオの夏祭りでは、北野のステージに飲み会の参加者が大勢集まる。古くて新しい方法だ。刺さり方の深さでリーチにプラスαをつけられる。

Q FM補完放送をどうとらえているか?

升家:FM化ですべて救われるという論調があるが、まったく違うと思う。我々は編成を大きく変えることはしない。なぜならば、コンテンツが多様化することで、ラジオがリスナーにとって面白いメディアになるからだ。ただ一つだけ、FM化に備えて昨年始めた日曜午後の音楽番組がある。名古屋で三本の指に入るぐらい音楽に詳しいフリーランスのディレクターをパーソナリティにした。今年の夏祭りでは、radikoプレミアムで聞いている東京と長野の人が、わざわざ彼のサインをもらいに来ていた。

田中:AM局のFM番組が違うのは、我々には報道部があることだ。それを含んだうえで、音楽重視で動けば、今までとは全くちがうタイプのラジオ番組が作りだせるはずだ。私が毎週欠かさず聞いているのは、土曜午後4時のNHK・FM「ラジオマンジャック」。赤坂泰彦さんもすごいし、番組のセンスがいい。こういう番組をローカルで作れないかと考えている。FM化は、編成や番組の在り方を根本から見直して、もう一回みんなで考える機会だ。元から考え直すのは、うちでは開局以来だろう。再スタートのチャンスととらえている。

Q 田中社長作のドラマ「風の男BUZAEMON」が民放連賞、ギャラクシー賞を受賞した。

田中:升家さんがラジオは深く刺さるとおっしゃったけど、私もそう思っていて、地域密着を突き詰めることがラジオの武器になると考えている。それで県内の歴史発掘をネタに30年、ラジオドラマを作ってきた。スポンサーも、取り上げる地域の味噌店や瓦店に頼んで5万円、10万円と出してもらっている。ラジオは肌に寄り添い、染み込むメディアだ。その特性はほかのメディアには絶対ないので、この特性をビジネスに結びつける方法は、まだまだあるはずだ。

Q 制作のアウトソーシングの割合は? また制作者の育成方法は?

田中:番組購入費が5000万円、外注制作費が5000万円。社員一人に掛かるコストが1000万円として約20人だから2億円。つまり自社制作に掛かるのは、社員が2億、外注が5000万という割合だ。ラジオの制作者は、全員radikoプレミアムに入らせて、いくつかの番組を勉強のために聞かせている。番組名は言えない(笑)。

升家:社員と外部スタッフの割合は4対6。社員はジョブローテーションが強みになる。先ほどの常滑の企画を担当したのは、制作から営業に行ったばかりの人間だ。市役所の職員と話して、すぐに一日ワイド番組というアイデアが出てきた。制作と営業の両方の経験が絶対に必要だ。パーソナリティに関しては、ラジオは局アナのスターを育てるべきだと思う。これは大きな財産になる。必要なのは場を与えることだ。

(記録構成・仲宇佐ゆり)

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