「渋谷ヒカリエ」に賭ける東急のまちづくり戦略 人が動くと、カネが動く

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筆者は、渋谷の再開発は、努力次第では都内まちづくりの新しいモデルとすることができるハズ、と考えている。

まず、地区全体のインフラ整備の強化。

戦後の日本の都市行政政策の重大な欠陥は、土地の高度利用という経済性(税収アップにつながる)のみに走って、コストのかかる地道なライフラインの強化を怠ってきたことだ。特に、世界の大都市に比して、いちばん強いはずの水対策が、その実、極めて脆弱である点だ。戦後の政治家も経済人も、そのウィークポイントについてあまり顧みてこなかった。

結果、どういうことが起こっているか。代表的地震国であるにもかかわらず、たとえば、東京都の水対策の場合、全都区部の水道管の耐震化工事実施率は、平均23%台。

15年になっても、30%に届くかどうか疑わしい。行政当局は建物の耐震化基準は厳しく言うが(これとて、超高層ビルの長周期地震動対策がまだ確立されていないが)、足元のインフラ整備はお粗末極まりない。

今、都内高層大型ビルでは電力の自家発電装置を備えたところが多くなっているものの、飲料水の自給自足(長期的な計画)はまず例がない。インフラ整備に熱心だったファウンダーに倣って、東急グループでは、街のライフラインの強化に力を注いでほしい、というのが、筆者の期待である。

街の整備に関しては、複雑なバスターミナルの一元化、東側(ヒカリエ)と西側(東急本店)の回遊性を高めるための工夫(空中回廊も一案)、街全体で取り組む高度の凶悪犯罪対策、いずれも喫緊の課題に違いない。

「にぎわいと同時に親しまれる街」。新しい渋谷の構築への道は、決して平坦ではないだろう。欠けているものを補う努力は絶えず必要。何より、街は生きもの、と知るべし。

アメリカの都市問題研究家のジェーン・ジェイコブス女史も言っていた。

「都市の魅力は,そこに生き生きとした人間がいること、まち行く人々の人情に安らぎ、思いやり、それが愛されるまちの歴史を作る」--。

撮影:尾形文繁(東急文化会館除く)

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