遺産分割でもめる家族や財産に類型あり--『モメない相続』を書いた長谷川裕雅氏(弁護士、税理士)に聞く
──相続は相続人全員の合意が原則です。
それゆえ、「トラブルメーカー」がいると、もめる原因になりやすい。まず当事者で任意の話し合いをするのが普通だ。そこでまとまらないと、裁判になる。裁判では、裁判官が決定を下してくれる審判の前に、遺産分割調停がある。これは、調停委員が間に入る特殊な状況での話し合い。そこで全員が合意に達しなければ、最終的に裁判官の審判を仰ぐ。
全員合意は、以前から会話ができるような間柄であれば、何とか可能かもしれない。ところが、たとえば前妻の子と後妻の子がいるといった、バックグラウンドが違うにもかかわらず、合意をしなければいけなくなってしまう場合もありうる。その場合でも、遺言があれば、初めから全員合意の必要がなくなる。
──遺言を書いておけばいい?
「もめない相続」にするためには遺言を書いておくのがいい方法だ。そこに財産目録、借り入れ明細、さらに、法的効力はないが、メッセージも付言事項として加えるとなおよい。最も安心で確実な方式は公正証書遺言だ。
──著書の『磯野家の相続』『磯野家の相続税』がベストセラーになっています。
ネーミングがよかったので多数売れた。ただ残念ながら、10万部を超えて売れたのに見合うインパクトはない。私に依頼をしようかと迷っている方が、本を見てこの人ならと安心し、それで受任したということはあるかもしれないが、従来の何割増しというほどではない。
むしろ、本を書いてよかったのは、言葉や表現に敏感になったことだ。必要な書類のドラフトにおいて、助詞一つでも従来以上に気にするようになった。弁護士は文章が命の仕事だから、読みやすくする作業を経験できて大いにプラスになっている。