遺産分割でもめる家族や財産に類型あり--『モメない相続』を書いた長谷川裕雅氏(弁護士、税理士)に聞く
──財テクとして盛んに不動産が活用された時期がありました。
バブルのときに所有地に賃貸マンションを建てる。それで土地評価額を下げ、同時に銀行からも借金をする。相続対策のつもりが、賃料はこの20年下がり続け、目算どおりの節税にもならず、といった歪んだケースにも、最近遭遇した。
──相続対策にならない?
二枚舌のようになってしまうが、確かに遺産分割には不動産がないほうが楽だ。しかし税務的には、現金で1億円持つより、不動産で1億円相当分を持っているほうが、相続額評価が低くなる。つまり節税効果は高い。税理士は税理士で不動産を買っておいたらと言い、弁護士は弁護士で不動産は分割しにくいとアドバイスすることになるかもしれない。遺産分割や生前の対策を考えるなら、複眼的な視点が必要だ。
──弁護士に生前からアドバイスを受けるべきですか。
そうしたケースは少ない。だから問題なのだが、遺産相続で争いになってからが弁護士の主戦場だ。生前の対策は税理士のほうがいい。両方の知識があり、早々に弁護士がアドバイスできる状態なら、トータルに考え、実行できる。
──弁護士は税理士資格が付与されます。
もともと税法は法律なので、まったく別の資格とはいえない。税理士だけを切り取っているのは諸外国ではむしろ珍しい。米国ではタックスローヤーという呼び方であり、弁護士がやっている。税法をよく理解していれば、相続での訴訟でも税負担に目配りがきちんとできる。
相続は地味な業務なので、年長の弁護士が得意のように思えるが、実は若い弁護士こそやらなければいけない。遺言執行者として指名されても、書いた人より先に弁護士が亡くなってしまうこともありうる。