《名もなき仕事》引き受ける勤続20年のベテラン女性社員が退職…"完璧な引継ぎ"でひと安心のはずが現場が大混乱に陥った必然の理由

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混乱は、顧客対応の質の低下だけでなく、社内にも広がっていました。原因は彼女が「無言」で処理していた膨大な業務のしわ寄せです。顧客への細やかなフォロー、他部署への根回し、そして何より現場で起きる突発的なトラブルの「火消し」。彼女がその経験値と直感で、表沙汰になる前に密かに片付けていた「名もなき仕事」たちが、不在によって一気に顕在化したのです。

現場スタッフたちの表情からも次第に余裕が消え、「なぜ、こんなに仕事が増えているのか」「マニュアル通りにやっているのに、なぜトラブルばかり起きるのか」出口の見えない閉塞感の中で、現場には苛立ちが募ります。かつては彼女に聞けば数秒で解決していたことが、今では数時間の会議と、何重もの確認作業を必要とする。その効率の悪さが、残されたスタッフの体力と精神を確実に削っていきました。

そしてついに、最悪の事態が起こります。彼女の背中を見て育ち、次世代のリーダーとして期待されていた30代の若手社員が、静かに退職を申し出たのです。

「あの人の代わりを自分が担うなんて、私には無理です。このままでは自分が潰れてしまう」一人のベテランが抱えていた「暗黙知」が失われたことで、組織全体の負荷が臨界点を超えた瞬間でした。

一見、円満に見えた「完璧な引き継ぎ」。しかしその実態は、組織の脆弱性を露呈させ、次世代の芽までをも摘み取る「破滅へのカウントダウン」に過ぎなかったのです。

では、この悲劇はなぜ繰り返されるのでしょうか。

「働き続けるか、辞めるか」の二択が組織を殺す

これは、決して特殊な事例ではありません。むしろ、現場が安定し、ベテランが長年組織を支えてきた「良い会社」ほど、陥りやすい構造だといえます。

仕事が回っている間は、問題は表面化しません。本人も責任感から役割を果たし続け、周囲も「あの人がいれば安心だ」と、その背中に無意識に依存していきます。その結果、ベテランの役割を改めて問い直す機会は後回しにされ、「その人がいる前提」のまま年月だけが過ぎていく。

そして限界が見えたとき、組織に残されている選択肢は「現役か、引退か」という極端な2択だけです。これが、多くの企業で「ベテランの離職ショック」が繰り返される理由です。

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