《名もなき仕事》引き受ける勤続20年のベテラン女性社員が退職…"完璧な引継ぎ"でひと安心のはずが現場が大混乱に陥った必然の理由
理由は、単なる体力の限界ではありませんでした。20年間、最前線で顧客の剥き出しの感情を受け止め、組織の綻びを一人で繕い続けてきたことによる「精神的な摩耗」。そして何より、「5年後、10年後も、今と同じように受話器を握り続けなければならない」という閉塞感に、心が悲鳴を上げていたのです。
慌てた管理職は、「業務量を減らしてはどうか」「出勤日数を調整しよう」と矢継ぎ早に条件を提示しました。しかし、彼女が求めていたのは、目先の負担軽減ではありませんでした。
しばらくの沈黙の後、彼女は拒絶の意志を込めて言いました。
「無理を重ねてすり減っていくより、綺麗なうちに区切りをつけたいんです」
「引き継ぎはしたけれど…」その後に起きたこと
話し合いを繰り返しても、彼女の決断が覆ることはありませんでした。ただ、そこに対立やわだかまりが生まれたわけではありません。管理職も彼女の貢献を認め、「無理をさせてまで続けてもらうべきではない」と、彼女の決意を尊重することに決めたのです。
退職までの数カ月では、引き継ぎの時間が丁寧に設けられ、顧客ごとの対応履歴や注意点を整理し、これまで口頭で済ませていたやり取りもできる限り言葉にして残しました。そこには、義務感だけではない姿勢がありました。長年働いてきた会社への愛着や、「自分がいなくなった後も、現場が困らないようにしたい」という思いが、彼女の行動から伝わってきたのです。
管理職の目には、その光景は「美しい引継ぎ」に映っていました。「ここまで丁寧にやってくれたのだから、もう大丈夫だろう」そんな楽観的な確信とともに、彼女は拍手に送られて現場を去っていきました。
しかし、本当の危機は彼女がいなくなった「後」に訪れました。現場に広まったのは、「正解がわからない」という静かなパニックでした。マニュアル通りに対応しているはずなのに、顧客からは「前と違う」と不満が漏れる。トラブルが起きたとき、以前なら彼女の阿吽の呼吸で収まっていたものが、何度も確認の往復を繰り返し、火に油を注いでしまう。


















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