連絡は2人ともまめにくれるし、デートもテンポよく会えていたのだが、あつおの会話は理路整然としていて、どこかにいつも自己主張を感じた。
「結婚後は、お互いの仕事や趣味は尊重し合いながらも、家庭という小さな社会をうまく築ければいいですね」
「次は、今後のお付き合いや結婚に向けての話がちゃんとできるように、静かな個室の店に行きましょう」
間違ったことは言っていない。だが、えみはやり取りを重ねるうちに、少しずつ違和感を覚えるようになった。会話に人間的な温かさがなく、“結婚するための判断材料を提示されている”ような気持ちになるのだった。
でも、心が動かない
「悪い人ではない。でも、心が動かない」
それが、えみの正直な感想だった。
一方、かつやとの時間は少し違っていた。 えみが仕事の愚痴をこぼすと、「それはしんどかったですね」と言葉を返し、無理に解決策を出そうとしない。ただ話を穏やかな顔で聞いてくれた。
デート後のLINEには、 「今日、えみさんが話してくれたこと、印象に残っています。教えてくれてありがとうございます」 と、感謝の言葉が添えられていた。
次の約束を決めるときも、あつおとかつやには違いがあった。
あつおは、「○日なら、何時、新宿あたり」「○日なら、何時、渋谷あたり」と日程と時間を、きっちりと指定してくる。
一方で、かつやは「ご都合のいい日があったら、候補をください。無理のないペースでいきましょう」 と、えみの生活リズムを尊重する姿勢があった。
仮交際を続けるなかで、えみの気持ちははっきりしていった。条件のよさや将来の金銭面の安定を考えるなら、あつおだ。しかし、“日々の気持ちに寄り添ってくれる穏やかな暮らし”を考えるなら、かつや。そして、かつやとの結婚のほうが、自分らしくいられると感じたのだ。
「結婚は日々の生活だから、年収の高い男性は魅力的。でも、結婚生活に大切なのはイコールな目線で、お互いを思いあえる気持ちではないかな」
そう考えたえみは、あつおとの交際を終了し、かつやとの関係を選んだ。


















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