米国は対シリア外交のスタンスを明確にせよ 必要なのは軍ではなく首尾一貫した政策だ

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オバマ政権はシリア問題に関し、早い段階で困難に直面した。アサドは紛争勃発から数週間以内に失脚するだろう、と想定していたからだ。この誤算は、前任者であるブッシュ大統領の、誤算に基づくイラク侵攻に匹敵する。ブッシュの判断の基礎には、フセイン大統領が大量破壊兵器を保有しているとの誤った前提だけではなく、フセイン失脚後のイラクは早急に安定した民主制国家になるという誤った予測もあった。

アサドが戦わずに退くことはないと明らかになっても、オバマ政権は、アサドが国民の支持を失って失脚するよう仕向けるにとどまった。この戦術は、独裁者に関するかぎり実績が乏しい。

また、イスラム国に対する米国主導の空爆にアサドが参加するのを禁止したり、反アサド勢力に暫定選挙を行うよう呼びかけたりするのは稚拙な戦術だ。これらはスローガン作りにすぎない。

シリアの危機は極めて複雑だ。しかし、この複雑さを説明する能力を備えた大統領が米国に存在するとしたら、オバマ以外にいない。

 各国と連携し、シリアの自主性も尊重せよ

オバマはまず、シリア危機の解決に利害関係を持つすべての国々と連携することを約束すべきだ。各国の見解にどんな違いがあろうと、シリアに平和と安定をもたらすことで得られる共通の利益は、一貫した政策を確立するのに十分な共通基盤となるだろう。

次に、アサドは権力の座にとどまるべきではないという米国の考えは道徳的には説得力があるものの、米国の公式な政策としては、その判断をシリア国民の手に委ねるべきだ。米国は、シリアに新たな指導者を押し付けようとするのではなく、シリア国内で選出された代表者たちとの協議の場を設けて、彼らが憲法を起草し、そのほかの政治体制を整えるのを支援する役割に徹するべきだ。

最後に、オバマはイスラム国を弱体化・壊滅させるために、同じ目的を持った国と今後も連携すると約束すべきだ。イスラム国の戦闘員が中東を不安定化させているかぎり、シリアに安全は取り戻せない。

米国は、シリア情勢を好転させるのに地上軍を必要としない。本当に必要なのは、考え抜いた具体的な目標を推進する首尾一貫した政策だ。

 (週刊東洋経済11月21日号)

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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