いまの中国には世界で最も積極的な企業家が現れている、と言っても過言でない。そして、若者たちも、大企業で働くより、起業したいと思っている。これは、90年代末のシリコンバレーと同じような空気だ。終戦直後の日本とも似ている。その頃のソニーやホンダと同じような企業が多数誕生しているわけだ。
これは、原始的な資本主義経済に近い世界だ。それが共産党独裁政権の下で誕生しているのは、きわめて興味深い現象だ。ロシアでも東欧でも、こうした現象は生じていない。
中国経済を語る場合、量的な巨大さや高い成長率に関心が集中する。その反面で、ここで述べたような企業家の存在は、日本ではあまり注目されていない。その意義はいまだ完全には評価しきれないところもあるが、将来への大きな可能性を開きつつあるのは否定できない事実だ。
翻って日本の現状を見ると、どうか? 日本の大企業は大組織病におかされて、リスクを取らない。大企業の経営者は、これまでの事業を変えようとしない。変えれば、企業の中での自らの地位が脅かされるからだ。そして、業績が伸びないのは円高のせいだと言い、法人税のせいだと言う。そして、経済が活性化しないのは、政府に成長戦略がないからだと言う。
若者は、優秀な人材が安定を求めて大企業に就職する。新しい事業を興そうという人が現れても、組織の壁に阻まれてできない。これでは意欲を失う。能力のある人はいるが、彼らが活躍できる環境がないのだ。大組織にいれば、安定した生活が期待できるだろう。しかし、それが日本を衰弱させているのである。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年5月26日号)
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